(domingo, 26 de marzo 2023)
文/志風恭子
texto por Kyoko Shikaze
今年も2月24日から3月11日までの16日間、ヘレスのフェスティバルが開催されました。2020年のフェスティバルの頃から感染拡大が話題になり終了後すぐにスペインは外出禁止になりました。翌年は開催時期を2月から5月に変更して開催したものの、海外からの参加は、あっても欧州内で、それでも帰国時にはPCR検査が義務だったりしました。21年は2月開催に戻りましたが、まだ日本は渡航自粛を呼びかけていたこともあって、日本をはじめとするアジア、そして南北アメリカからの参加はほとんどありませんでした。感染状況も落ち着き、スペインの入国制限も撤廃、公共機関でのマスク義務も無くなった今年、ようやく世界中からフラメンコを愛する人々がヘレスに再び集うことができるようになったのです。
開幕は国立バレエ
開幕はスペイン国立バレエ団『エル・ロコ』、2004年に初演された作品で昨年12月マドリードにて再演されたもので、フェスティバルの初代監督パコ・ロペスの原案、台本、演出、ハビエル・ラトーレの振付。ハビエルは関係者限定だった第1回から今まで毎回欠かさず短期クラスの講師を務めている唯一の存在。ということもあってか、初演時にもヘレスで上演されたこの作品がまたビジャマルタ劇場に帰ってきたのも当然のことかもしれません。ダンサーたちの技術レベルの向上、また構成や振付の見直しの成果もあって、よりわかりやすく、より完成された作品となっていたと思います。
© Festival de Jerez/Esteban Abión
ビジャマルタ劇場公演
40人以上が舞台に立つ、国立バレエのような大所帯の翌日は、踊り手はたった一人というヘマ・モネオの公演でした。踊り手一人という作品は他にもあって、ビジャマルタ劇場公演ではエドゥアルド・ゲレーロ、オルガ・ペリセ、マリア・ホセ・フランコ、マリア・ホセ・フランコがそうでした。さらに言えばパウラ・コミトレとエバ・ジェルバブエナの共演者はコンテンポラリーダンサーだし、ピニョーナとイスラエル・ガルバン、マリア・デル・マルの共演ダンサーは一人だけだし、少人数で、主役が踊りまくる公演が多かったように思います。コロナ禍で人との交わりが減ったせい? 経費削減? 実際問題、大人数は移動等の経費もかかるし、地方公演も行いにくいという点があるのだろう。それでもラファエラ・カラスコ、マリア・パヘス、パトリシア・ゲレーロが舞踊団での公演を続けているのは素晴らしいと思います。
© Festival de Jerez/Tamara Pastora
中でも作品のクオリティという点で、ラファエラの作品『ノクトゥルナ』は群を抜いていました。昨年のビエナルでの初演よりパワーアップし、とにかく美しいのです。動きも、静止も、音楽も、照明も、コンパスとのやりとりも、レマーテも。振付家としてのラファエラは語彙が豊かで一つとして同じ振りがないという感じ。ニュアンスの付け方やちょっとした身体づかいでより雄弁に語りかけてきます。イスラエル・ガルバンとはマリオ・マジャ舞踊団仲間ですが、最先端のイスラエルとはまた違うアプローチで、フラメンコの地平を拓いていっているという気がします。
白髪をそのままにしたマリアはマリア・パヘスを演じているというか、かつての自分をなぞっている感じ。自らのスタイルを確立したからこそ、なのではありますが、かつての勢いや新しい試みなどは影を潜めているような気がしました。作品としての完成度で目を引いたのはエドゥアルド・ゲレーロ。コンテンポラリーのダンサーを共同演出に迎え、照明で作る空間の見事さや音楽の素晴らしさは特筆ものでした。またオルガ・ペリセもコンテンポラリーぽいオープニングには賛否両論あったようですが、男装でのファルーカが絶品だっただけでなく、カスタネットやボレーラのパソなども見せ、舞踊家としての実力をナチュラルに、改めて感じさせてくれました。
© Festival de Jerez/Tamara Pastora
© Festival de Jerez/Esteban Abión
フラメンコの自由、自由なフラメンコを常に指し示すイスラエルの『セイセス』はイスラエルによる生まれ故郷セビージャへの愛憎入り乱れたオマージュ。最高傑作ではないが、彼ならではのコンパス感、ユーモアで楽しませてくれました。一方、伝統派というのか、ヘレスの二人、マリア・ホセ・フランコとマリア・デル・マル・モレーノは、共演者で新味を出そうとするものの、踊り自体は今まで通り。見慣れたものが見たい人にはいいのかもしれません。
© Festival de Jerez/Tamara Pastora
そのほかの公演
ビジャマルタ劇場以外での公演は今回、あまり見ることができなかったのですが、日本公演が好評だったヘスス・カルモナ『ゲーム』、ダビ・コリア『ロス・バイレス・ロバードス/ワーク・イン・プログレス』が印象に残りました。二人とも抜群の身体能力! 国立やラファエラ・カラスコ舞踊団などの若手たちも彼らに続くようなテクニックなのですが、そこから自分のスタイルを、個性を発揮して、ヘススやダビのような存在になるには時間がかかるかもしれません。そういえば二人とも国立バレエ出身ですね。
© Festival de Jerez/Esteban Abión
日本人の活躍
2011年『ラ・セレスティーナ』でヘレスのフェスティバルに初登場した小島章司。その後、『ファトゥム』、「中国人には歌わない」、『フラメンコナウタ』、『ロルカxバッハ』とビジャマルタ劇場での公演を続けてきましたが、今回はスペイン以外の国出身のアーティストが主役となる公演シリーズ『デ・ラ・フロンテーラ』の一環としてアタラジャ博物館での公演。『フラメンコナウタ』で共演したメキシコやブラジル出身らの踊り手たちとタイトル通り『トダ・ウナ・ビダ(一生)』をフラメンコに捧げた小島へのオマージュのような公演でした。長年の仲間であるギタリスト、チクエロや歌い手ロンドロ、そして今回は踊りのソロも披露した今枝友加らのサポートも万全で、80歳を超えたとは思えないサパテアードを聞かせ、最後は観客全員でのスタンディングオベーションとなりました。
© Festival de Jerez/Esteban Abión
またフェスティバルに先駆け行われたイタリア、トリノから始まったフラメンコ・プーロ国際舞踊コンクールでは、ソリスト/ノンプロ/シニア部門で相坂直美が優勝、押野由紀子が準優勝、ソリスト/プロ/アダルト部門で瀬戸口琴葉が優勝、土方憲人が3位、ソリスト/プロ/シニア部門で宇根由佳が優勝するなど大躍進。相坂、瀬戸口、宇根はフェスティバルのプログラムとして行われたガラ公演にも出演しました。また公式プログラムではないですが、ライブハウスで行われたオフ・フェスティバルやタバンコと呼ばれるバルでの公演にも多くの日本人が出演しました。またオフ・フェスティバルやタバンコには他にもスペイン以外の国出身のアーティストが出演していました。
©︎ Concurso Internacional de Baile Flamenco Puro Enrico Manzana
伝統、古典、ネオクラシコ、モダン、コンテンポラリー、前衛…フラメンコにはさまざまなスタイルがあり、フラメンコはさまざまなバックグラウンドを持った人が自由に自らを表現できる、無限の可能性を持ったアートだということを改めて感じさせてくれたフェスティバルでした。それにしても、こんなにたくさんの全く違った個性を持った才能が、百花繚乱、咲き乱れているフラメンコ舞踊、そしてスペイン舞踊はまさに黄金時代なのではないでしょうか。来年のフェスティバルも楽しみです。
【各公演のダイジェスト動画】
国立バレエ『エル・ロコ』
ラファエラ・カラスコ『ノクトゥルナ』
https://vimeo.com/802499367
小島章司フラメンコ国際舞踊団『トダ・ウナ・ビダ』
https://vimeo.com/803638411
オルガ・ペリセ『ラ・レオナ』
https://vimeo.com/804936245
イスラエル・ガルバン『セイセス』
https://vimeo.com/806135111
マリア・デル・マル・モレーノ
https://vimeo.com/807141660
【筆者プロフィール】 志風恭子/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。 >>>>>