(domingo, 17 de diciembre 2023)
フラメンコの本場スペインでは、年間を通して大小さまざまなイベントやフェスティバルが各地で行われています。その中でも大規模なフラメンコ・フェスティバルの1つ、『スマ・フラメンカ』が今秋マドリードで開催されました。そのプログラムのラインナップや今年の総評などについて、20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子さんがリポートします。
『スマ・フラメンカ 2023』フェスティバル
2023年9月21日-11月5日、マドリード、スペイン
Festival SUMA FLAMENCA de Madrid 2023
21 Septiembre - 5 Noviembre 2023, Madrid, España
文: 東 敬子
Texto: Keiko Higashi
画像: 宣材写真
Fotos: material promocional
マドリードで毎年行われるフラメンコの祭典「スマ・フラメンカ」は、初夏に行われる「フラメンコ・マドリード」と共に、スペインを代表する大規模なフェスティバルの一つとして、愛好家に親しまれています。
18回目を迎える今年2023年度は、マドリード市内7ヶ所の会場で44公演が行われ、198名のアーティストが出演しました。第一線で活躍するアーティストが一堂に会し嬉しい悲鳴をあげた今回のスマ・フラメンカですが、目玉となったのは、やはり世界初演となった13作品と、マドリード初演となった12作品。完売に続く完売で、今更ながらフェスティバルの人気のほどを再確認しました。
これらの劇場公演は、10月17日から11月5日までの3週間弱の期間でしたが、実はフェスティバル自体は、その1ヶ月ほど前からすでにスタートしていました。
9月21日から24日まで、カナル劇場にて、30歳以下のアーティストに焦点を当てた、第3回『スマ・ホベン』フェスティバルが行われ、本フェスティバルの前哨戦として観客を大いに魅了しました。スマ・ホベンのレポートもアップしているので、そちらも併せて読んでくださいね。
そして文化会館アテネオでは、フラメンコの女性をテーマに、写真家パコ・マンサーノによる写真展『フラメンカス』が10月4日より開かれ(11月3日まで)、初日にはフラメンコ識者ペドロ・カルボによる講演『フラメンコの女性達』も行われ、ラ・トレメンディータのカンテ、パトリシア・ゲレーロのバイレ、ハビエル・コンデのギターが彩りを添えました。
続いて10月5、6、7日には『講演-カンテ、トーケ、バイレ』と題し、フラメンコ識者ホセ・ルイス・オルティス・ヌエボの『パストーラ・パボン、ラ・カンタオーラ』、ファウスティノ・ヌニェスの『女性とフラメンコギター』、ホセ・マヌエル・ガンボアの『ラ・アルヘンティーナ〜カルメン・アマジャ、間にアルヘンティニータ』の3講演が行われ、サロメ・パボンのカンテ、アントニオ・ヒメネスのギター、エステラ・アロンソのバイレが披露されました。
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「ニーニャ・デ・ロス・ペイネス」の愛称で知られるカンテの巨匠パストーラ・パボンのイラストが彩られた今回のスマ・フラメンカは、『フラメンコのるつぼ』というサブタイトルのもと、カンテ、ソロギター、バイレのそれぞれの「今」を、ステージに繰り広げます。
フラメンコの主役はなんと言ってもカンテ(バイレじゃないですよ〜)。今回のラインナップでも、その存在が光ります。まずは故エンリケ・モレンテの長女であり、すでに貫禄さえ見せつつあるエストレージャ・モレンテ。ギターのラファエル・リケーニと共に、その声をニーニャ・デ・ロス・ペイネスと、ギターの巨匠ニーニョ・リカルドに捧げます。彼女と同世代で人気を分つマイテ・マルティンやアルカンヘル。かつてパコ・デ・ルシアのグループでも活躍したラファエル・デ・ウトレーラや、今では大御所となったホセ・デ・ラ・トマサ。着々と実力を付けているロシオ・マルケス、サンドラ・カラスコ、ホセ・バレンシアなどなど、聞きどころ満載。
ソロギターでは、名ギタリストだった祖父と同じ芸名で活躍するフアン・アビチュエラ・ニエトや、フラメンコギターの世界では数少ない女性アーティスト、メルセデス・ルハンの公演など、興味をそそられるセレクション。
そしてバイレでは、常に新しい何かを追求してやまないアンドレス・マリンやエステベス&パニョス。ヘレス出身というブランドに縛られない自由な感性を生み出すレオノール・レアル。自身のセクシャリティを臆さず曝け出すマヌエル・リニャン。そして現代バイレを代表するエバ・ジェルバブエナなど、さまざまな踊りのスタイル、そして世代が交差します。
もちろん、毎日・全公演を観たいのは山々ですが、今回は厳選してバイレ5作品、カンテ1作品だけ拝見させていただきました。
* フエンサンタ・ラ・モネータ『フレンテ・アル・シレンシオ』(アバディア劇場、10月21日)※マドリード初演
* レオノール・レアル、ペラーテ、アルフレド・ラゴス、プロジェクト・ロルカのグループ『カレテーラ・ウトレーラ=ヘレス』(カナル劇場・緑の間、10月22日)※世界初演
* サンドラ・カラスコ&ダビ・デ・アラアル『レコルダンド・ア・マルチェーナ』(カナル劇場・黒の間、10月28日)
* ニノ・デ・ロス・レジェス『ブエルタ・アル・ソル』(カナル劇場・黒の間、10月29日)※世界初演
* アンドレス・マリン『ハルディン・インプーロ』(カナル劇場・赤の間、11月4日)※マドリード初演
* エバ・ジェルバブエナ『ジェルバグエナ』(カナル劇場・赤の間、11月5日)※世界初演
これら6公演を選んだ第一の理由はもちろん「気になる人たち」だからですが、この内5作品は世界初演・マドリード初演ですし、サンドラ・カラスコの今作品も私は初めてだったので、この6作品には大きな期待を込めて観させて頂きました。そしてそれぞれが、驚きのあるステージでした。もちろん、ここはちょっと…、あそこは今ひとつ…という部分もそれぞれありました。しかし、それぞれが模索し、その中での今の自分のベストを尽くしている、それが良く見える作品たちでした。そして中でも秀逸・大満足だったのが、エバ・ジェルバブエナの公演でした。
皆さんの中にもエバのファンは多いと思いますが、私は実は普段、エバの作品を嬉々として観に行くほうではないんですよね。彼女が舞踊団を作ってから20年を超え、その作品のほとんどを観ましたが、感動して胸を熱くした時もあれば、重いと感じてしまった時もあります。
なぜなら、彼女の伝統的なスタイルはこの上なく愛しているんですが、コンテンポラリースタイルには、それほど惹かれないのです。いや、その動きはとても興味深いし、彼女の持ち味の一つ、トレードマークではあるので、受け入れてはいるのですが、それよりもあの激しい、情熱的なフラメンコが私の中では上回るのです。
しかしながら今回の作品は、まさに彼女の集大成、フラメンカな彼女に共存するコンテンポラリーな部分も十分に愛することができるステージでした。
これら6作品のレビューは、今後それぞれ投稿していきますので、お楽しみに。
最後に、今回のフェスティバルの総評として、まず挙げたいのが、その素晴らしいプログラムです。まさに今が旬のアーティストが一堂に会し、カンテ・ギター・バイレの全てが充実し、文句なしのセレクション。今回も観客を大いに満足させたに相違ありません。また、「男は男らしく」という考えが未だはびこるフラメンコにあって、マヌエル・リニャンの名作『ビバ!』のような、自身のセクシャリティを全面に押し出した作品を上演することは、非常に素晴らしいことであり、これからも是非、このような、人々を勇気づける作品を上演していって欲しいと思います。
しかし、マイナスの部分も指摘させてください。まず、ヒターノのアーティストが極端に少ないこと。198名のアーティストが出演したとのことですが、その大半が非ヒターノである事実は見逃せません。フラメンコはもちろんスペインの芸術であり、世界中で愛される芸術です。しかし、その核を担っているヒターノのアーティストが減ってしまえば、フラメンコの味は、薄まってしまうのではないかと私は思うのです。20年前は彼らの歌を、ギターを、踊りを、本当に多くの舞台で楽しむことができました。このフェスティバルに限らず、ヒターノのアーティストが活躍できる場が少なくなってきている現実は、変えるべきだと思います。
また、フラメンコ識者の講演もいつも同じメンバーで、こちらも大きな問題だと私は思います。なぜ他の、若い・新しいフラメンコ識者が講演しないのでしょうか。彼らが素晴らしい識者の方々なのは理解しますが、私はもう20年ずっと同じ人たちを見ています。新しい人も入れていかないとフラメンコ学の未来はありませんよね。論文を公募しても良いでしょうし、これからはもっと開かれたものであってほしいと思っています。
何はともあれ、また来年もぜひ、今年と同様素晴らしいフェスティバルを開催してほしいと思います。
【筆者プロフィール】
東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。
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