ココが見どころ!
(domingo, 20 de octubre 2024)
来月にいよいよ開幕を迎えるスペイン国立バレエ団2024年日本公演。
実に6年ぶりとなる今回の来日公演の見どころを、当サイトのWEBマガジンで連載中のスペインニュースやアーティスト名鑑でもおなじみ、フラメンコ研究家の志風恭子さんにたっぷり解説していただきました。
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文/志風恭子
Texto por Kyoko Shikaze
華やかで美しいフラメンコとスペイン舞踊を心ゆくまで楽しもう
世界でも稀な、最高に華やかで美しい舞台をみせてくれるスペイン国立バレエ団が6年ぶりに来日します。フラメンコファンはもちろん、バレエファンやスペイン音楽ファン、そしてミュージカルファンも満足すること間違いない舞台が、来月いよいよ開幕です。
7月に自身の舞踊団を率いて来日したアントニオ・ナハーロの後を継いで芸術監督に就任したのはルベン・オルモ。フラメンコのメッカ、セビージャ出身。18歳から4年間、国立バレエ団で主役をも踊るなど活躍後、自らの舞踊団を創立。その後アンダルシア舞踊団の監督としても素晴らしい作品の数々を世に送り出してきました。ルベン監督の就任以降、最も力を入れてきたのがフラメンコだと言います。
スペイン国立バレエ団はスペイン舞踊専門のバレエ団です。バレエという言葉からクラシックバレエを想像しがちですが、スペイン語では、舞踊団や物語性のある舞踊作品のことも、バレエと呼ぶのです。スペイン舞踊は、フラメンコだけではなく、古典舞踊エスクエラ・ボレーラ、スペイン各地に伝わる民族舞踊、それらの要素を取り入れたダンサ・エスティリサーダ、と大きく分けて4つのジャンルの舞踊があります。そのすべてを完璧にこなすための日々の努力は欠かせません。国内、海外を問わず、公演中でも、舞台上で公演前のバレエのクラスは毎日行われています。
その言葉を裏付けるように、今回の日本公演では、第一部がフラメンコ以外のスペイン舞踊の小品集、そして休憩を挟んだ第二部はフラメンコ作品となっています。さらに東京だけでなく、富山、名古屋、兵庫でも上演されるAプログラムでは、フラメンコ作品のためだけのゲスト・ダンサーも登場します。日本初演の作品もあるので、古くからのフラメンコファンも、新しいファンも共に満足できるのではないかと思います。
Aプログラム
様々な世代ヘネラシオンの振付作品で構成されたのがこのプログラム。
オープニングを飾るのは『リトモス』。1984年初演と言いますから今から40年前の作品で、アントニオ・カナーレスやハビエル・ラトーレ、ホアキン・コルテスなど、国立に在籍したダンサーならほとんど誰もが踊ったことがあるだろう作品。男性はスペイン伝統の衣装トラへ・コルト、女性もそのデザインに準じたような胸のところで切り替えのある、回転で美しく広がる衣装。
ホセ・ニエトの印象的な音楽、アルベルト・ロルカの優雅かつダイナミックな振り付け。時を経ても決して古臭くなることのない名作です。
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
続いて上演されるのはスペイン舞踊の今を象徴される作品。今回は二作品が日替わりで上演されますが、どちらも2022年9月にマドリード初演された、女性ダンサーがピアノの生伴奏で一人で踊るものです。コンテンポラリーダンサーでありながらフラメンコ/スペイン舞踊の造詣も深い、アントニオ・ルス振付の『パストレーラ』では第一舞踊手インマクラーダ・サロモンの伸びやかな表現に、
Ballet Nacional de España©︎ María Alperi
ルベン・オルモ監督振付の『ハカランダ』では、コンテンポラリーアートのような、一風変わった衣装の時と、それを脱ぎ捨てた後の、飛び跳ねるような表現の対比に注目したいところです。弾けるように踊るデボラ・マルティネスが素晴らしいです。
Ballet Nacional de España©︎ Fernando Marcos
そしてもう一作品、アントニオ・ルイス・ソレール、日本ではグラン・アントニオの名で知られる、スペイン舞踊の歴史最大のスターで功労者の振付による、サラサーテのサパテアードも踊られます。フラメンコ舞踊の大きな特徴である、足技により靴音を高く鳴らせて踊ることをサパテアードといいますが、その技術、舞踊にインスパイアされてチゴイネルワイゼンで知られるスペインの作曲家サラサーテが作曲、発表されました。音楽とシンクロする超絶足技。スペイン舞踊の粋を堪能してください。
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
第一部の最後を飾るのは、ラヴェルの『ボレロ』。今回は、スペイン国立といえば、のホセ・グラネーロの振付で帰ってきます。
アール・デコ調のデザインの鏡、魔法のように現れては消える踊り手たち。ソロで、パレハで、
Ballet Nacional de España©︎ Yuki Omori
群舞で、
Ballet Nacional de España©︎ Yuki Omori
寄せては返す波のような音楽をスペイン舞踊の技術を駆使して描いたこの名作は1987年フランス、ボルドーで初演。日本公演でも定番として長年上演されてきたこの作品が再び、日本に帰ってくるのです。スペインでは今はほとんど上演されていないこの作品を観ることができるのはうれしい限りです。
Ballet Nacional de España©︎ Yuki Omori
第二部は1996年にアントニオ・カナーレスが振り付けた『グリト』。
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
以前も日本で上演されたことのあるフラメンコ作品ですが、ルベン監督就任後、以前はなかったティエントを演目に加え、また音楽でもコーラスを加えるなど、ブラッシュアップ。さらに今回は、カナーレス舞踊団で長年活躍したポル・バケーロとモニカ・フェルナンデス、
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
日本にも何度もやってきているエル・フンコ
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
という三人のフラメンコのスペシャリストもゲスト出演し、いつものスペイン国立とは一味違った舞台を見せてくれることでしょう。
もちろん、国立バレエ生え抜きのプリンシパル、セビージャ出身フランシスコ・ベラスコ(*今回は来日しませんでした。11月21日追記)や、
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
第一舞踊手、マラガ出身のホセ・マヌエル・ベニテス
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
若手のノエリア・ルイス
Ballet Nacional de España©︎ Merche Burgos
ら、国立バレエのメンバーも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれること間違いなしです。
こちらのビデオは古いバージョン
Aプログラム、2022年マドリード公演のプロモーションビデオがあったのでこちらも貼っておきますね。
Bプログラム
こちらは2020年3月ヘレスのフェスティバルで、ルベン・オルモ監督が就任後初の作品として上演された意欲作。ボレーラ、エスティリサーダ、フラメンコと、スペイン舞踊の各ジャンル、それぞれの醍醐味を余すことなく伝える素晴らしいプログラムです。初演直後に世界的なパンデミックのため、バレエ団も一時活動できなくなってしまいましたが、こうして日本で観ることができる喜びは計り知れません。
最初の演目は『インボカシオン・ボレーラ』。ルベン・オルモ監督振付のエスクエラ・ボレーラの作品です。
Ballet Nacional de España©︎ Ana Palma
エスクエラ・ボレーラは踵のあるフラメンコシューズではなく、バレエシューズ(つま先立ちをするトゥシューズではありません)で踊られるのが特徴で、回転や跳躍など、クラシックバレエのテクニックと共通するところも多いです。
Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
クラシックバレエにない技術としてはカスタネットがありますね。また独特の構えもクラシックバレエとは違います。この作品でも回転、跳躍に加え、カスタネットも含めた超絶技を堪能してください。伝統的な古典舞踊をそのまま、ではなく、現代的に洗練させて見せています。
Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
プロモーションビデオ
続く『ハウレーニャ』はソロ作品。初演ではルベン監督自らが踊りましたが、現在ではバレエ団の第一舞踊手インマクラーダ・サロモン、ホセ・マヌエル・ベニテスがダブルキャストで踊っています。ボレーラやエスティリサーダ、フラメンコと共にコンテンポラリーダンス的な要素もあり、現代スペイン舞踊を象徴するような小品です。
初演でルベン監督が踊っています。Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
『イベリア讃歌』は前芸術監督、アントニオ・ナハーロの振付による、古き良き時代のスペイン舞踊へのオマージュのような作品。
Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
スペイン舞踊の歴史上、最も重要な舞踊家の一人であるグラン・アントニオのために作曲されたオーケストラ曲で、マントや帽子、カスタネットなど伝統的な小道具を使いつつ、現代的な見せ方も駆使してスペイン舞踊ならではの美を堪能させてくれます。
Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
そして第二部の『フラメンコ組曲〜マリオ・マジャに捧ぐ』は、ベテランのフラメンコファンには懐かしいマリオ・マジャが1994年創立、当時監督を務めていたアンダルシア舞踊団のために振り付けた作品をベースに、かつて同舞踊団に在籍したラファエラ・カラスコ(『ロマンセ』)とイサベル・バジョン(『タラント』)の振付も加えた作品。
フラメンコらしさにあふれ、マリオを、マリオの振付を知っている人なら、おおっと感動すること間違い無いだけでなく、新しいファンも、そのコンパス感覚に唸らざるを得ないだろうと思います。とにかくかっこいい。
Ballet Nacional de España©︎Ana Palma
Ballet Nacional de España©︎Ana Palma
Ballet Nacional de España©︎Ana Palma
マリオの振付だけでなく、日本人フラメンコにもお馴染みのマノロ・マリンの振付もありますよ。
Ballet Nacional de España©︎Javier Fergó
華やかなフィナーレに包まれて幸せな気分で家路につけること間違いありません。
Ballet Nacional de España©︎ Javier Fergó
Bプログラムの3年前の地方公演の様子のビデオです
いかがでしょうか。華やかで活気に満ちた唯一無比のカンパニー、ダイナミックかつ繊細、優美かつ情熱的、迫力のある彼らの舞台を見逃す手はありません。
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【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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