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新・フラメンコのあした vol.4

(lunes, 5 de junio 2023)


20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、5月14日に開催されたフェスティバル「フラメンコ・マドリード2023」で上演された青少年による公演についてのリポートです。


文・写真/東 敬子

Texto y fotos por Keiko Higashi


フンダシオン・アララ

『エル・アルボル・デル・フラメンコ』

フェスティバル「フラメンコ・マドリード2023」

カサ・エンセンディーダ特設会場、2023年5月14日、マドリード


Fundación Alalá, “El Árbol del Flamenco”

Festival Flamenco Madrid 2023

14, mayo 2023, La Casa Encendida, Madrid


 今やマドリードを代表するフェスティバルの一つとなった「フラメンコ・マドリード」。第7回目を迎える今回は、子供たちに焦点を当てた、子供たちによる子供たちのためのフラメンコで幕を開けました。


 日曜日の正午とあって、ファミリー客で賑わうカサ・エンセンディーダの中庭に設けられた特設ステージでは、フンダシオン・アララによる公演『エル・アルボル・デル・フラメンコ(フラメンコの木)』が、会場の赤ちゃんの泣き声に迎えられながら楽しくスタートしました。


 フンダシオン・アララは、セビージャのポリゴノ・スール地区に拠点を置く児童教育を目的とした団体で、フラメンコやアートを通してこの地域に住む子供たちを支援し、現在はヘレス・デ・ラ・フロンテーラでも活動を行っています。


 この団体は、ポリゴノ・スールに住むギタリスト、エミリオ“カラカフェ”が近所の子供に無料でギターを教えていたことに端を発しました。カラカフェと言うと、ドキュメンタリー映画『ポリゴノ・スール』(監督ドミニク・アベル、2003年)を思い出す人も多いですよね。今回は彼のギターと共に、アララでバイレ、カンテ、カホン、演劇を学ぶ26名(小学校高学年~中学生ぐらい)がステージを飾ります。


 失われつつある自然と、消滅しつつあるフラメンコの伝統とを掛け合せ、それを子供たちの手で蘇らせようというストーリー。土地開発でじゃまになり、もうすぐ切り倒される大木のそばに、一人の少女が座ります。すると突然その木が喋りだし、彼女はびっくりしてすぐに仲良しグループの3人に報告しますが、信じてもらえません。しかしやがて4人は共に木の声を聞き、もうすぐ切り倒されることを知ります。そしてその木は「フラメンコの木」でした。

 

(参考資料/筆者提供)フラメンコの木

 皆さんもフラメンコの本やサイトで、フラメンコの曲種やスタイルを図式化した『フラメンコの木』を見たことがあると思います。木の本体には根元から上に向かってトナー、ファンダンゴなどが育ち、そこからセギリージャ、カーニャ、などの枝が生えています。物語では、その「木」から少女が摘んだ葉っぱの曲種を「木」が説明してくれ、子供たちはフラメンコへの興味をどんどん深めていくのです。


 まずはカマロンの楽曲をみんなで歌い、女性のソロでソレア、タンゴと続き、セギリージャでは4人のバイラオーラが魂を込めます。男性二人がそれぞれファンダンゴを熱唱し、バイレでセビジャーナス、アレグリアス、ブレリアと、華やかにクライマックスを迎えます。


 フラメンコの未来のためにも、複雑な背景に育つ子供たちを支援するためにも、今回この作品が、この様な大きなフェスティバルの演目として上演されたことには大きな意義があったと思います。皆、真摯に打ち込み、今日のこの日を爽やかな笑顔で包みました。特にカンテソロを歌った3人は、フラメンコの味を惜しみなく味あわせてくれました。


 ただ、物語のアイデアは良かったものの、コンテンポラリー風に踊りながらストーリーを伝える「ドゥエンデ」が大人の踊り手だったこともあいまって、先生と一緒に習ったことのお披露目というような、発表会の雰囲気になってしまったのは、一つの作品として観に来たフラメンコ・ファンには、残念ながら物足りなかったのかなと思いました。少なくとも、私はそう感じました。


 小学生ぐらいの子たちの演技を見るのは、青田刈り的な楽しみがあるものです。しかし今回の公演では、子供というには既に立派に育ったティーンがほとんどだったので、つまりは「可愛いね、よく頑張ってるね」と闇雲に褒めてあげられる年齢でもなく、フラメンコでは15、6歳ですでにプロ意識を持って活動している才能ある若手はたくさんいますから、彼らとの技術・意識の差を感じざるを得ませんでした。


 フラメンコの未来のためにも、将来プロを目指す小・中学生を一堂に会した公演がもっとあればな、と思います。昔はこんな機会がもっとあったように思います。ぜひ開催してほしい。それは出演する子供達は元より、フラメンコ関係者に留まらず、客席で楽しむ子供達、お父さん・お母さんにも刺激的な出会いになるはずです。



【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)

フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。


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