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新・フラメンコのあした vol.22

(domingo, 1 de diciembre 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。

今月は、10月にマドリードで開催された「スマ・フラメンカ2024」フェスティバルで上演されたマヌエラ・カラスコ公演についてのリポートです。

 

マヌエラ・カラスコ

『シエンプレ・マヌエラ』

カナル劇場・緑の間、マドリード、スペイン

2024年10月17日

 

Manuela Carrasco,

"Siempre Manuela"

Teatros del Canal - Sala Verde, Madrid.

17 de octubre 2024

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材 / 東 敬子

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción/ Keiko Higashi


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 皆さんは70歳という年齢をどう感じますか。私は数年前までは「想像もできない」と思っていましたが、昨今は「それほど遠い未来でもないかもしれない」と感じ始めています。

 

 やっぱり年齢を重ねると共に、知り合いや身近な人の不幸が増えるので、否が応でも「のほほんとした未来」は「生命の現実」にすり替わっていくんですよね。また、自分より年下の人達が世の中の中心になってくると、自分の中での現役感も薄れていって…。でもそれが怖くて、まだまだ行けると焦る自分もいます。そんな、人生の何回目かの転期を迎えている時に出会ったのが、今回「スマ・フラメンカ2024」フェスティバルでマドリード初演されたマヌエラ・カラスコの『シエンプレ・マヌエラ』公演でした。

 

 セビージャに生まれ、人々が「バイレの女神」と称える偉大なバイラオーラは今年で70歳。今回の作品をもって彼女は観客にさよならを告げていきます。私が足を運んだのは、もちろん、その勇姿を目に焼き付けるためでした。でも正直に言えば、「ステージは大丈夫だろうか…」という危惧さえ抱いていました。だって、70歳ですからね…。

 

 ところが、です。私は本当にびっくりしました。彼女に年齢は関係なかったんです。だって彼女は「バイレの女神」ですからね! 

 

 最近は40〜50代でも、高い技術レベルを保っている踊り手はたくさんいます。でもやっぱり20代の時と比べれば、必死に「頑張ってる感」は否めない。ある人は息を切らしていたし、ある人はなんだか痛々しかった。きっとそれは、以前と同じレベルを保ちたいという気持ちに体が付いていっていないためなのでしょう。でもマヌエラは、ちょっと違うんです。

 

 もちろん、体力は落ちただろうけど、それを感じさせない。パソも以前より簡素になったのかもしれないけど、今の彼女の踊りの印象は、20年前に観たそれと、全く変わらない。あの足の正確さ、クリーンな音、美しい立ち姿、どれをとっても変わらない。特にあの鉄火肌の敏捷な動きはすごい。出来た事ではなく、今出来る事を最高のレベルでやる。潔い。まさにフラメンカ!

 

 そして私は、とても背中を押されました。今やるべきことが見えてきました。それはシンプルにブレずに「目標に向かって日々の努力を続ける」ということでした。もう、彼女の足の筋肉を見たら、とても70歳とは思えない。マヌエラはバイレを踊り始めてから60数年の間、それを続けてきました。だからこそ、彼女は今もステージに立って、こうして私を感動に導いてくれたのです。

 

 今回の公演では、バックを固めた音楽陣の活躍にも注目が集まりました。カンテにはベテランのエンリケ・エル・エストレメーニョ、マヌエル・タニェ、そしてマヌエラの娘サマラ・アマドール。バイオリンにサムエル・コルテス。パーカッションにホセ・カラスコ。ギターには、マヌエルの夫で2023年に惜しまれつつ亡くなったホアキン・アマドールに代わり、ペドロ・シエラが務めます。そして特別ゲストとしてマヌエラの娘でバイラオーラのマヌエラ・カラスコ・イハが華を添えました。

 

 エストレマドゥーラとレバンテの歌に始まりブレリア、カーニャ、特に最後のエル・エストレメーニョの情感溢れるカンテで踊られるマヌエラのソレアには心揺さぶられました。ステージの端に置かれた椅子にはギターが掛けてあり、長年マヌエラのステージを支えてきた亡き夫を悼み、そして共に観客に最後の礼を尽くす姿に目頭が熱くなりました。

 

 カンティーニャスを踊った彼女の娘マヌエラは、ヒターノのバイレの味を醸しつつも、母とはまた違った現代のタッチがある踊り手でした。それを受けてスペインのメディアの公演評などでは、今回の公演は母と子の世代交代の場となった、というような事も書かれていましたが、私はその印象は受けませんでした。たとえ血が繋がっていても、誰もマヌエラ・カラスコの代わりにはならない。彼女は唯一無二の踊り手なのですから。

 

 だからこそ惜しまれる。これが本当に最後のツアーになるのでしょうか。まだまだ見続けていたい。彼女のフラメンコを感じていたいのです。

B_2412東_Manuela carrasco (c) keiko higashi_c

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。

 

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