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新・フラメンコのあした vol.21

(lunes, 4 de noviembre 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、間もなく開幕するスペイン国立バレエ団の来日公演に先駆け、今年7月にマドリードで上演された劇場公演についてのリポートです。

 

スペイン国立バレエ団

『へネラシオネス』

サルスエラ劇場、マドリード、スペイン

2024年7月21日

 

Ballet Nacional de España,

"Generaciones”

Teatros de la Zarzuela, Madrid. 21 de julio 2024

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材 

 

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción


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 待望の来日が11月に迫ったスペイン国立バレエ団。6年ぶりとなる今回の公演は、A、Bプログラムに分かれ、バラエティに富んだスペイン舞踊の数々を堪能することができます。

 

 今回は来日公演に先駆け、2024年7月マドリードにて、10日間に渡って上演された『へネラシオネス』公演の模様をお届けします。こちらは日本公演のAプログラム(「時代を超えて〜Generación〜」)とほぼ同じですが、日本公演では追加作品があり、日によって作品の変更もありますので、ご確認ください。


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 タイトルにある通りこの作品では、各ジェネレーションを代表する舞踊家による、時代を切り取った名作を一度に見ることができます。また、スペイン舞踊のスタイルの違いも同時に楽しむことができます。

 

 「スペイン舞踊」は、スペインで生まれた4つの舞踊ジャンルの総称で、フラメンコの他、クラシックバレエの影響を受けたエスクエラ・ボレラ、スペインのクラシック音楽で踊られるクラシコ・エスパニョール(ダンサ・エスティリサダ)、そして土着の民族舞踊があります。音楽も舞踊技術も異なるこれら全てのスタイルを網羅した公演を行う、それが難しいのは、言わずもがな。しかし、それを行い、そして観客を存分に楽しませてくれるスペイン国立バレエ団は、だからこそ世界中で愛されているのです。

 

 まずはアルベルト・ロルカがいにしえの名舞踊家ラ・アルヘンティニータへのオマージュとして振り付けた『リトモス』(1984)。これは同バレエ団の歴史を語る際、必ず名が出る作品で、正に同舞踊団の代表作の一つと言えるでしょう。私はリアルタイムで観ることはかないませんでしたが、今観ても、全く色褪せない華やぎであったり、新鮮なひらめきがあります。丈が今より少し短いファルダやシンプルな靴が、すごく可愛かった。パレハ、トリオ、女性の群舞、男性の群舞など、クラシックな構成や振付も面白かったし、何より技術が素晴らしい。オーケストラによる生演奏、カスタネット演奏も圧巻でした。

 

 コンテンポラリーダンスの鬼才アントニオ・ルスとのコラボレーションは以前『エレクトラ』(2017)でもありましたが、新作『パストレラ』(2022)でも、その斬新さが光ります。インマクラダ・サロモンのソロで踊られるこの作品は、同バレエ団の現監督ルベン・オルモが打ち出すスペイン舞踊の未来を見据えた独特の世界観があります。18世紀後半に活躍したセビージャ出身の作曲家マヌエル・ブラスコ・デ・ネブラの曲のピアノ演奏で踊られるこの作品は、18世紀の音楽と21世紀の舞踊表現の出会い、すなわち、過去と現代の風景の出会いであり、時空を飛び越える内なる感動でもありました。

 

 そして最後はアントニオ・カナーレス振付の『グリート』(1997)。当時のフラメンコのトレンドは、カナーレス一色だったと言っても過言ではありません。いや、彼のフラメンコのスタイルは、もはや現代フラメンコの基礎だと言えるので、観ていても、25年も前の作品である感覚は全くありませんでした。皆さんも普通に違和感なく「良い作品」という印象を受けるのではないでしょうか。

 

 『グリート』は、カナーレスの真骨頂と言えるでしょう。マルティネーテに始まりセギリージャ、ソレア、アレグリアス、ティエント、タンゴと、フラメンコ一色。ソロやパレハが常のフラメンコにおいて、群舞をこんなに面白く見せられる振付は他に類を見ない。そして作品の中で少しずつ高まっていく高揚感と最後の爆発は、フラメンコそのものの表現であると思います。

 

 でも、この作品はただ単に名作と言うだけでなく、現代のフラメンコが今探すべきものを私に再確認させてくれました。『グリート』は「現代フラメンコ」のスタート地点であり、今と繋がっている。だからこそ見えてくるのです。25年後の今を生きる現代の若いアーティストは皆、内なる感情をこめて踊ります。それはむしろ昔より強くなっている。しかし、それを観客と共有し、みんなと一緒のこの空間に昇華しようとする想いはどうでしょうか。皆さんに、ぜひこの名作を体験してほしい。そして現代フラメンコに今必要なものとは何かを探して欲しいと思うのです。

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【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。

 

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