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新・フラメンコのあした vol.2

(lunes, 3 de abril 2023)


文/東敬子

Texto por Keiko Higashi


Foto por Merche Burgos

Vídeo por Ballet Nacional de España



20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、去る3月8日の国際女性デーに公開されたスペイン国立バレエ団の動画作品についてご紹介します。


スペイン国立バレエ団

国際女性デー2023 『センブラモス・イグアルダ』


Ballet Nacional de España

“Sembramos igualdad”

Día Internacional de la Mujer 2023


 先日3月8日、スペイン国立バレエ団より、一通のメールが届きました。

 しかしそこには、特に何か説明があるでもなく、動画へのリンクと出演者の名前、作中に読まれるナレーションが記述してあるだけ。そしてその動画を見て、私はさすがだなと思いました。3分半ほどの短い作品でしたが、非常に意義のある、そしてある意味、予想を裏切る構成に、非常に心惹かれました。


 皆さん、3月8日が「国際女性デー」と呼ばれていることを、知っていましたか。

 1910年、デンマークのコペンハーゲンで行われた国際社会主義女性会議によって提唱されたこの「国際女性デー」は、1977年に国連によって3月8日と定められ、現在も毎年、世界各国で祝われています。


 その一環として制作された今回の動画は、ステージに現れた同バレエ団現監督ルベン・オルモ扮するひとりの男性が、一輪の花を床に突き刺す場面から始まります。それに続く女性たちが、それぞれ手にした花を、想いを込め力強く床に突き刺し、その刺した花が風に揺れ、たおやかに咲き乱れるように空気を愛撫します。


 「同等の権利、地位、尊厳をまもりたい」ならば一緒にと、皆が歩き出します。一輪の風に揺れる花も、集まれば美しい庭になるように。女性だけではなく、男性も入り混じり、それぞれが飾らない普段着で、様々な色やスタイルの靴で、同じステップを踏みます。そして最後に、男性と女性が手を取り合い、一輪の花を床に突き刺します。彼女は言います。「私たちに平等を」。そして男性が言います。「私たちはあなたの側に」。


 短くシンプルですが、分かり易く的確に表現された作品だと思います。女性の権利をテーマにした作品の場合、往々にして女性だけが登場するものですが、予想に反し、ここでは男性も一緒に登場する。女性だけがその権利を主張するのではなく、男性も彼女たちの権利を守るために、その主張を共有していくべきであると言うメッセージが織り込まれていたこと、それは新しい着眼点であると共感しました。


 また、女性・男性を超えた、1人の人間としての権利・尊厳をも訴えるそれは、ルベン・オルモ監督の問題意識の高さであり、鋭さだと感心しました。多様性を尊重しようとする現代のよりリアルな問題定義を感じさせました。そう、これは女性だけの問題ではない。それは私たち全ての人間が一緒に解決していく、変えていく、発展させていく問題なのです。


 こういったメッセージ性の強いものは、深刻な表現に陥りがちですが、この作品は非常に美しく、強い芯を保ちつつも、最後には軽やかな味わいが残ります。そこも、非常にセンスが良いと感じました。


 日本では、舞踊団は踊りというパフォーミング・アートを表現するだけのもの、という考えが一般的な世間の認識なのかなと思うのですが、ヨーロッパでは、アートを通して社会問題に取り組む・貢献する事は、その活動の一部だと考える文化があります。この舞踊団のような国立の団体であれば、そうする事に尚さら意義がある。


 昨今ではSNSの普及で、より多くの人々にその活動を知ってもらう手段が増えました。今回の作品は、ただ皆んなが集まって動画を作ったわけではないのです。ちゃんと構成し、振付し、リハーサルもやって、完璧に演じ撮影された作品なのです。そうやって、利益に直結しなくても、社会の一員としての活動に、手間を惜しまない。それは必要なことであると思うし、日本の舞踊団やアーティストの方々にも、ぜひやって欲しい。そういう意識が門戸を広げ、また、世界とつながる、世界と想いを分かち合う術になると思うのです。


 別に社会性が無くても良いんです。例えば国際ダンスデーでも良いし、フラメンコの日でも、何でもいい。芸術は個人的な表現手段にとどまらない、人々の心を一つに出来る素晴らしいものである。それをぜひ、実感し、共有して欲しいと思うのです。


【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)

フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com を主宰。


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