第9回 凜 -Rin-
【ギター部門/奨励賞】
(jueves, 11 de abril 2024)
フラメンコを志し、さらに高みを目指すために目標として掲げられる大舞台、新人公演。
昨年の入賞者に、自身の経験や思いを語ってもらいました。
第9回目は、ギター部門で奨励賞を受賞した凜 -Rin-さんです。
舞台写真/一般社団法人日本フラメンコ協会 提供
編集/金子功子
Edición por Noriko Kaneko
まず、先の新人公演に際して私の推薦人となることにご快諾いただいた日本フラメンコ協会事務局長 瀬戸雅美さん、
手厚いサポートで本番の舞台へと導いてくださった沖仁さん、
どんなときも厳しく、ギターに向き合う姿勢を自らで以て示し、
遠く離れた今でも多大な影響を与えてくれる恩師アルベルト・ロペス氏に大きな感謝を表したい。
そして、いつも応援してくださる方々に支えられて立つことができた新人公演の舞台であり、
あの温かい拍手と名前を呼ぶ声援をこの先も忘れることはないと言える。
ひとつひとつ、時間をかけて御恩をお返ししていくことを誓うと共に、
これからという今日を生きるための決意を此処に記すことにする。
積雪を踏む。
繕うためのコンバースチャックテイラー70はその冷たさを間近に捉え、種(くさわい)を朧げに認めつつある。
きっと誰かが踏みつけた足跡を辿るだけ。
それがこの靴の傷みを抑える最適解なのは言うまでもなく、
無意識の内にすでにある雷同的思考に身を任せるのみで、
目的地へと続く点と点には心底関心がないのだと気づく。
目の前の偶然を蔑ろにして、積み重ねた末の今日という刹那を必然と呼ぶのなら
悔やんでも晴れることのない空に何を嘆こう。
2023年8月、リバティのシャツに咲く花は戦いでいた。
照りつける夏の太陽にまだ値打ちのない“現在(いま)”を射されて。
ときに“時間”は意味を持ちたがる。
過去と未来にまたがるだけの無関心。
その実、計り知れない緊張がそこにはある。
夢中になってギターを鳴らした17歳の日々に名前をつけてあげたかった。
あるはずもない約束を睨みつけ、現在(いま)に惹かれ囚われ生きていたあの日々に。
流麗を紐解けば孤独だった。
後悔があるとすればなんだろう。
あのときセミウィンザーに不向きなヴィンテージネクタイを選んでしまったことだろうか。
やむなくプレーンノットへ切り替えたが、何事も拵えは重要であることを痛感した。
(HUDDERSFIELELD FINE WORSTEDSの生地で仕立てた3ピースのモッズスーツがどこまでも演奏向きでないことはあえて触れないでおく。洋服の並木さん、いつもありがとうございます。)
斯くの如く人は誰しも後悔のもとに今を生きている。
過去というスペクトラム(連続性)に取り残されたまま、季節を求め彷徨い、償うことで未来を希うのだろう。
何者であるかの証明など必要なければ、誰が為に音を紡ぐこともない。
そこにあるのは「自惚れ」と書いた信念だけで、葬る随に化粧としてわずかに艶めくかぎりだ。
綺麗なままでお気に入りのページに挿んでいる忘れ去られた押し花のように、
頽れそうな瞬きの中でひどく饒舌に海馬を撫でられたなら—
岐路にまどろむ宵の口。覚悟は揺蕩うばかりで綺麗事を欲しがるものだ。
結露した月日は頬を伝い、過去を生きるほど現在(いま)に傷つくのだと知る。
輪郭を持たない今日という胚を満たすだけの藻屑さえあればいい。
継ぎ接ぎの理想を装えば、それはいつしか自己と化す。
物憂げをカラフルに彩るこの"未来"があるから、あの日夢中になれたことがきっとある。
懶に溶かした過去も、空を仰いだあの夜も。
全てを音に込めていく。
すでにそこに足跡があるように、見据えた先に赴いた者が必ずいる。
雪解けを待つか、轍を重ねるか、新たな標となるか。
履いた靴に任せてみればいい。
ありふれた別離に交わす言葉だけが明日を連れてくる。
そこに約束はいらない。
至高のヴィンテージと呼ばれるその日まで。
【プロフィール】
凜 -Rin-/音楽プロデューサー、フラメンコギタリスト、作詞・作編曲家。
日本では沖仁氏、スペインでは主にアルベルト・ロペス氏に師事。
ジャンルにとらわれず様々な音楽との融合を図った1stアルバム『Möbius -メビウス-』が注目を集め、多種多様な音楽性や風貌から「カメレオンギタリスト」と称される。
第32回新人公演ギターソロ部門にて奨励賞を受賞、ANIF会員賞では会場・配信ともに最多得票を獲得。あわせて三冠を達成する。
【新人公演とは】
一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。
プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。
バイレソロ、ギター、カンテ、群舞の各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。
(*一部、ANIF公式サイトより引用)
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