第8回 中里眞央
【バイレソロ部門/奨励賞】
(jueves, 4 de abril 2024)
フラメンコを志し、さらに高みを目指すために目標として掲げられる大舞台、新人公演。
昨年の入賞者に、挑戦へのきっかけや本番までの道のり、自身の経験や思い、これから挑戦する人に伝えたいことなどを語ってもらいました。
第8回目は、バイレソロ部門で奨励賞を受賞した中里眞央さんです。
舞台写真/一般社団法人日本フラメンコ協会 提供
編集/金子功子
Edición por Noriko Kaneko
2023年8月、私にとって4度目の新人公演。
毎年カンテ部門とバイレ部門で出場していたが、前年に念願のカンテ部門で奨励賞を頂戴し、今回はバイレソロ一本に集中できることになった。
それぞれが置かれている状況によって、新人公演に臨む心は変わってくるだろう。
私は「挑むからにはもちろん獲りたい!」その気持ちがあったことは間違いなく、どうしたらより良い舞台を作り上げられるのか、常に考えながら取り組んでいた。
昨年受賞時のエッセイには、自分が舞台の主体となることの責任感、当事者意識、本番までに過ごし方の重要性について書かせていただいた。そもそも私が新人公演にエントリーした動機は、一人で舞台に立つ責任を負うためといっても過言ではない。私は舞踊団員として活動しており、ソロ活動はしていなかったので、基本的には先生方が責任を持ってくれている。その状態から、自分自身の軸をより育てたいと考えたことが大きかったのだ。
よって、今回書かせていただくこの文章のテーマも前回とほぼ同じではあるのだが、根底にある私のメンタルは去年とやはり違うように思う。私の捉え方、私の味わい方だ。
3月に、私はヘレスに行っていた。常日頃思いを馳せるその地で、前年にも新人公演で歌・踊り共に伴奏していただいたヘレスのギタリスト、マレーナ・イーホと師匠である佐藤浩希との3人でタラントを作った。
振りはあっという間に完成した。1時間のエンサージョ×二日間程度だっただろうか。新人公演で実際に踊ったほぼそのままのベースが、そのたった二日間で完成したのだ。
これまでの私はとにかく賞にこだわり、全員押しのけてでも私が奨励賞を取るんだ!という気持ちでいた。しかしこのタラントが出来上がって、実際に新人公演の直前にミュージシャンの皆さんと集合して練習できるようになってから、焦りや不安が完全に無くなり、ただその音に身を任せることができるようになった。
また、当日に同じスタジオから出る仲間がたくさんいて、その出番が続いていたこともあり、普段のリハーサルどおり皆の出番を袖で応援し、リラックスして本番を迎えることができた。
本番の記憶は、不思議とほとんどない。気付いたら全てが終わっていて、残った感情は「また来年」だった。
しかしいつもと違ったのはお客様の反応として「奨励賞を獲ると思う」と言っていただける数が段違いだったことだろうか。
あまりに皆様に言っていただけたので「もしかしたら奨励賞いただけるのかな」「兎にも角にも、みんなに喜んでいただけたならよかったな」そう思った。
そして受賞を知った時、私は動揺した。そもそもバイレでの受賞は念願すぎて放心状態になり、当たり前に訪れる喜びの感情に混ざって不安と恐れに襲われる、不思議な感情だった。
その後もそんな心のまま続々と現実の出来事が押し寄せてくる。それは周りの方々からのお祝いの言葉であったり、ねぎらいであったり。そしてあっという間の授賞式…には舞台の仕事のため出席することも叶わなかった。そんなこんなで手応えもないまま、正直なところ半年たった今もまだ実感が湧いていない。
これから新人公演に挑戦する人たちへ私の立場から言えることがあるとするなら、「出続けることが重要!」ということだろうか。
諦めなければ夢は叶うとか、努力は必ず報われるとか言いたいわけでは決してない。
私が念願であった奨励賞をいただけたことの理由の大半は運であるし、誰よりも人一番努力したわけでもきっとなく、ただ辞めなかったからこそいただけたことは間違いない。
受賞コメントとして、以下の言葉を日本フラメンコ協会に送らせていただいた。
「いつの間にか夢見るようになっていた新人公演。その受賞が叶った先、私にできる表現とは、フラメンコとはなんだろう。」
賞をいただいたことは幸運であり不運。
新人公演から卒業した今、それは私の背中にずっしりとのしかかっている。
満足せず、立ち止まらず、まずは9月20日のソロリサイタルに向けて、そしてさらにその先に向けて、私は歩みを止めません!
【プロフィール】
中里眞央(Mao Nakazato)/東京都出身。ARTE Y SOLERA所属。
2021年河上鈴子スペイン舞踊新人賞、2022年ANIF新人公演カンテ部門奨励賞、2023年全日本フラメンココンクールカンテ部門優勝。
スペイン3都市を巡る『カスティーリャ・ラ・マンチャツアー』、平成天皇皇后陛下の御臨席を賜った『Ay曽根崎心中(新国立劇場)』、Antonio Malena主催『XIII JEREZ OFF FESTIVAL 2024』などに出演。
そのほか、歌い手、踊り手として歌舞伎やミュージカルまで幅広く活動中。
【新人公演とは】
一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。
プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。
バイレソロ、ギター、カンテ、群舞の各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。
(*一部、ANIF公式サイトより引用)
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