第3回 荒濱早絵
【バイレソロ部門/奨励賞】
(jueves, 29 de febrero 2024)
フラメンコを志し、さらに高みを目指すために目標として掲げられる大舞台、新人公演。
昨年の入賞者に、挑戦へのきっかけや本番までの道のり、自身の経験や思い、これから挑戦する人に伝えたいことなどを語ってもらいました。
第3回目は、バイレソロ部門で奨励賞を受賞した荒濱早絵さんです。
舞台写真/一般社団法人日本フラメンコ協会 提供
編集/金子功子
Edición por Noriko Kaneko
私にとって初めての新人公演でした。
前年は応募人数過多で、抽選漏れとなってしまったため、やっと出られる!そんな思いで臨んだ公演でした。
いつかちゃんと自分の踊りができるようになったら、ここに立ちたい!と学生時代からずっと憧れ続けた舞台でした。ここ数年、どうやったら理想の踊り方に近づけるのか、何をやっても全然上達しないと悩んでいたのですが、ここで自分と真剣に向き合わなければいつまで経っても変わらない。ならば自分自身に大きな課題を課し、納得いくまでとことんやろう、と決意したのが出演のきっかけでした。
普段ライブでたくさん踊らせてもらっているタブラオでは、小さい舞台でお客様に息遣いまで伝わるような空間で、一曲の中で段々と温めながら盛り上げていく時間があります。しかしここまでの大きな舞台でソロを踊るのは初めての経験で、大ホールの空間いっぱいを満たせるほどの踊りができるのか、また7分という短い時間の中で、自分のフラメンコを表現できるのかが、一番悩んだことでした。
選んだ曲は「ソレア」。理由は自分が一番難しいと感じて、学びたいと思った曲だったからです。大きな舞台だから動かなきゃ!それを意識しすぎて、初めのリハーサルでは動きすぎ、メリハリがない、良さが何も出ていない、そんな言葉をもらい、どん底まで落ち込んだまま、6月にスペインのテレビ番組に出演するため渡西しました。それまで振付、構成も何が相応しいのだろうと、見せ方に悩んでいましたが、ヘレスやセビージャの空気をいっぱい吸って、リハーサルの合間に大好きなマエストラ達のクラスを受け、やっぱり自分の好きなものを突き通そうと心が決まりました。
好きなものがいっぱい詰まった7分間、その後はひたすら一つ一つのマルカールの精度を上げる、振りの意味を考える、サパテアードの音質にこだわる、闘いの時間が続きました。その時間はたくさん悩みもしましたが、今となってはあっという間で、自分にとって宝物のような時間でした。
そして本番当日。なんと出演順が最終日の一番最後。どんどん自分の出番を終えて帰っていく出演者の方々。最後は楽屋に一人ぼっちでした。集中力が続くかを心配しましたが、直前までたくさんの出演者の方々に励まされ、すごく落ち着いて本番を迎えることができました。あとはムシコスの尾藤さん、桂子さん、雄輔さん、心強い仲間達とこの舞台を楽しむだけ! 最高の7分間でした!
踊っている時は、会場からの沢山のハレオに一気に緊張が解け、身体に力がみなぎっていったのを今でも覚えています。それまではずっと自分自身との孤独な闘いでしたが、改めて周りの方達に支えられて、踊っていられる自分があることを深く実感しました。
終演後、ロビーで先生や、応援に来てくれた友人達の顔を見たときには、涙が止まりませんでした。
結果発表までの1週間は気が張りっぱなしの毎日で、受賞を知った時は、素直によかったと安堵の気持ちが強かったです。それまで支えてきてくださった方々によい報告ができたのも、とっても嬉しかったです。
奨励賞という素晴らしい賞をいただき、やっとスタートラインに立てたという思いも強く、長く終わりのないフラメンコ道、今はこの新人公演で得られたものを糧にして、さらに精進し、その先へ突き進んでいきたい思いです。
新人公演に出演することは大きな決断ですが、フラメンコとまっすぐ向き合えるというのはもちろん、人としても学ぶことが多く、成長することができる機会だったと感じています。今後も新人公演が多くの方にとってよい経験、感動の場であることを願って、これから挑戦する方々に心からエールを送ります!
【プロフィール】
荒濱早絵(Sae Arahama)/東京外国語大学在学中にスペイン舞踊部代表を務める。岡本倫子、後藤なほこ、影山奈緒子に師事。2012年に初渡西、様々なスペイン人アーティストらに師事。渡西を繰り返しながら、ライブ出演や講師活動中。第32回日本フラメンコ協会新人公演バイレソロ部門奨励賞、ANIF会員賞会場、配信ともにトリプル受賞。第1回フラメンコWEBフェスティバル最優秀賞受賞。
【新人公演とは】
一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。
プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。
バイレソロ、ギター、カンテ、群舞の各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。
(*一部、ANIF公式サイトより引用)
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