Ballet Español de la Comunidad de Madrid
(マドリード州立スペイン舞踊団)
(sábado, 12 de octubre 2024)
スペインには国立バレエ団を筆頭に数々の舞踊団が存在しますが、このたび首都があるマドリード州に公立のスペイン舞踊団が創設されました。その劇場公演のリハーサルの模様を、日本で踊り手として活躍する佐渡靖子さんにリポートしていただきました。
文/佐渡靖子
Texto por Yasuko Sado
芸術監督ヘスス・カルモナと舞踊団員(公演パンフレットより)©Rafa de Pazos
今年、スペインの首都マドリードに公立のスペイン舞踊団が誕生しました。初代芸術監督にはヘスス・カルモナが就任。2024年10月12日から27日にかけて、マドリードのTeatros del Canal(カナル劇場)にて、いよいよ初演作品が公開されます。
9月13日、初演を1か月後に控えたタイミングでリハーサルを見学する機会をいただきました。場所はカナル劇場に併設されている「Centro Coreográfico Canal(カナル振付けセンター)」です。
記念すべき最初のプログラムは
第1部 スペイン舞踊作品『スペイン組曲』全編(アルベニス作曲)
第2部 フラメンコ作品『エピファニア・デ・ロ・フラメンコ』
“スペイン舞踊”には4つの要素(エスクエラ・ボレーラ、ホタをはじめとする民族舞踊、ダンサ・エスティリサーダ、フラメンコ)があり、第1部はスペイン舞踊をたっぷりと堪能できるプログラム。『スペイン組曲』のなかの“アストゥリアス”は舞踊作品として見る機会がありますが、全編がオリジナルの順番どおりに踊られたことは過去になく、今回が史上初の試み。劇場ではフルオーケストラの演奏で上演されます。パンフレットには「歴史と伝統を守り、ダンスの技術でスペイン舞踊を刷新する」とあります。その言葉どおり、新しい時代の始まりを感じさせる圧巻のスペイン舞踊作品です。
続く『エピファニア・デ・ロ・フラメンコ』は、スペインとアメリカ大陸の間で生まれた“イダ・イ・ブエルタ”の曲や、マドリードの街を唄ったカラコレスを軸に、ガツンと直球のフラメンコあり、コンテンポラリーなテイストもあり、時間の流れのなかで人々の営みを見つめるような壮大な作品。ソロパートもありますが、後ろにいる人たちまでやたらと楽しそうなのが良い。音楽監督はギタリストのフアン・レケナ。パンフレットには「自身の芸術的遺産を認識し、再構築し、来るべき世代に遺産として残すアーティストの真実」とあります。その気概が伝わってきます。
ちなみにヘスス・カルモナも出演するようですが、この日のリハでは省略。しかし彼の出演シーンを抜きにしても、非常に見ごたえのあるものでした。
とにかくダンサー達がすばらしい。男女10人ずつ計20人のダンサーは、公募オーディションを経て約500人のなかから選ばれました。16〜19才の有望な若者の枠もあり、20人のうち4人はこの枠から選出されています。
“スペイン舞踊”というと古典寄り、バレエ寄りかなと想像していましたが、フラメンコに強い人を集めたなという印象です。日本のスペイン舞踊の第一人者、故・岡田昌己先生が「スペイン舞踊も、結局はフラメンコが上手い人がいいのよね」とおっしゃっていましたが、まさにそのような人たちの集団。さらにコンテンポラリーのような動きも自然だし、体も頭も自由自在といった感じで、時代の変化も感じます。
おや?と思ったのは身長差がかなりあって、体型も色々で、いわゆる“舞踊団ぽい”感じがないのです。おそらく、全体のバランスだとか、平均点で揃えようという考えは初めから無かったのでしょう。作品のつくりを見ても、ダンサーが均質である必要はまったくありません。みんな踊りが上手なだけではなく個性的だし、この舞踊団はそれを歓迎しているように見えます。群舞のなかにあっても個々がきらりと輝く瞬間があって、それが立体的で面白く、この舞踊団の一番の魅力だと感じました。
芸術監督のヘスス・カルモナは、リハーサル中もテキパキと指示を出しながらずっと動き回っていました。ダンサー達が全身全霊で踊る姿を見れば、彼の精神がしっかりと受け継がれていることを感じます。助監督のジョナタン・ミロ、振付指導のルシア・カンピージョらの強力なサポートがあることも忘れてはなりません。
初日チケットはすでに完売とのことで、注目度の高さがうかがえます。この期間にマドリードに行く機会があれば、ぜひ劇場でご覧になってください。
先日は初演に先駆け、エスコリアルのサンロレンソ劇場でのイベントで、舞踊団が初めて観客を前に踊ったようです。その様子は公式Instagramにも掲載されています。
写真提供:マドリード州文化観光スポーツ省
マドリード州立スペイン舞踊団 Instagram
カナル劇場にて(撮影:佐渡靖子)
【プロフィール】
佐渡靖子(Yasuko Sado)
建築を学ぶ学生時代、バルセロナで偶然フラメンコと出会う。卒業後、設計事務所に勤務しながらフラメンコを学ぶ。日本フラメンコ協会新人公演奨励賞(2017)。岡田昌己&アンドレス・マリン作品『ラベリント』出演(2018)、平富恵舞踊団作品に客演する等、劇場作品でも活躍。常にフラメンコの“今”に触れ研鑽を重ねている。
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