スペインNews 3月号・2025
- norique
- 3月6日
- 読了時間: 6分
(jueves, 6 de marzo 2025)
文・写真/志風恭子
Texto y fotos por Kyoko Shikaze
フラメンコの2月といえばヘレスのフェスティバル。今年も2月後半になると、日本からもフラメンコたちが続々とスペインに到着。そんな様子をSNSで見てこっちも気分が上がってヘレスに到着。今年もフラメンコ漬けの日々が始まりました。毎日公演を見るだけでもクタクタ。それに加え、毎日クラスを何時間も受けている踊り手の方々には頭が下がります。航空券やホテルも高くなった今、クラスに、公演に、と、短い期間で効率的に、フラメンコに集中できるという機会はそれだけ貴重なものなのだと思います。
ヘレスのフェスティバルはコルドバのギター祭をお手本に、フラメンコとスペイン舞踊に特化したフェスティバルとして、ヘレスの市の外から人を呼び込もうと、29年前に始まりました。その狙いはあたってクルシージョは世界各地から多くの参加者を集め、あっという間に先発のビエナルなどと肩を並べるフェスティバルとなりました。がはじまった当時のヘレスでは、フラメンコといえばヘレスの歌い手たちによるカンテだったので、舞踊中心のフェスティバルには興味を示さず、むしろ反感を抱く人もいるような有様でした。今でもフェスティバルの中心であるクルシージョに参加するのはヘレスの外、スペインはもとより外国からやってきた人たちが中心ですが、回数を重ねていくにつれ、ペーニャ公演が行われるなどして、ヘレスの人たちも、公演を見に出かけたり、見に行かないにしてもフェスティバルが行われていることは知っていたりと関心を持つ人も増えたように思います。
また、国を超えフラメンコ好きが集まるこの時期を商売の好機と捉え、フェスティバル主催のもの以外にもクルシージョやライブが行われたりもしています。ホテルにとってもオフシーズンであるこの期間にお客さんが増えるのはうれしいことに違いありません。ある短期滞在用アパートの経営者は、フェリアとオートバイの世界選手権、そしてフェリアの時期だけ貸しているのだと言っていました。それだけで商売が成り立つ、ということなのでしょう。確かにフェスティバル初日そして最終日のヘレス発着の電車は早くから満員だったりと、かなりの集客効果がありそうです。ヘレスの町が潤うことでヘレスの素晴らしいフラメンコ・アーティストたちにも直接、間接的にお金が入って、いつまでも素晴らしいフラメンコの聖地としてあってほしいと願ってやみません。

恒例の記者会見が今年は形式を変え、講演についてのお話の後、毎回違うテーマでの会話も加わり、色々勉強になります。写真はメルセデス・デ・コルドバとラファエラ・カラスコとフェスティバル監督カルロス・グラナドス ©︎ Kyoko Shikaze
《INDEX》
【ヘレスのフェスティバル2024年各賞授賞式】
そのヘレスのフェスティバル昨年の各賞の授賞式が2月22日コンセホ、レグラドール、シェリー酒の産地統制委員会で行われました。昨年はアルフォンソ・ロサの『アルテル・エゴ』が観客賞、批評家賞、オリジナル作曲賞がギタリストのフランシスコ・ビヌエサに、ヘレスのペーニャ協会が選ぶ舞踊伴唱賞がアンヘレス・トレダーノにと各賞を席捲。

4つの賞を手にした『アルテル・エゴ』グループ。©︎ Kyoko Shikaze
他にはギター賞がチクエロ(都合で来れず、前列右端の作品の舞台監督が代わりに受け取りました)、新人賞がフアン・トマス・デ・ラ・モリア(右から3人目)、ヘレスの少年歌手マヌエル・モンヘ(右から4人目)がペーニャ公演の新人賞を受賞しました。

©︎ Kyoko Shikaze
【ラ・ウニオン、カンテ・デ・ラス・ミーナス祭プログラム発表】
夏のフラメンコ・フェスティバルのプログラムも少しずつ発表されています。2月20日にはマドリードの王立劇場内で、カンテ・デ・ラス・ミーナス祭のプログラムが発表されました。毎年ムルシア州のラ・ウニオンという小さな町で開催されるこのフェスティバルは、スペインに数あるフェスティバルの中でも有数の歴史と規模を誇ります。
昨年の覇者として、初日には萩原淳子も出演します。その後はグラミー賞受賞のアントニオ・レイ、サラ・バラス、ヘスス・カルモナ、マイテ・マルティン、アンダルシア舞踊と続き、最後の4日間はコンクールです。今年はどんな才能が登場するのでしょう。楽しみです。

プログラム発表でのラ・ウニオン市長ホアキン・サパタ
◇第64回カンテ・デ・ラス・ミーナス国際フェスティバル
7/30(水)〜8/9(土)
7/30(金)
[出]ラ・ウニオンのアルティスタたち
7/31(土)
[出]開会宣言〈c〉へスス・コルバチョ、〈g〉ジョニ・ヒメネス、〈b〉萩原淳子、〈チェロ〉マルケス8/1(金)
[出]〈g〉アントニオ・レイ
8/2(土)『ブエラ』
[出]〈b〉サラ・バラス舞踊団
8/3(日)
[出]〈b〉ヘスス・カルモナ
8/4(月)
[出]〈c〉マイテ・マルティン、エセキエル・ベニテス
8/5(火)『ティエラ・ベンディタ』
[出]〈b〉アンダルシア舞踊団
8/6(水)、7(木)、8(金)
コンクール準決勝
8/9(土)
コンクール決勝
[場]ムルシア州ラ・ウニオン 旧公設市場など
[出]2024年コンクール優勝者など
【パコ・デ・ルシア フラメンコ・レガシー】
パコ・デ・ルシアのドキュメンタリーが2月24日からカナルスール、アンダルシアTVで公開されました。
これまでにパコについてのドキュメンタリーは親友の一人マヌエル・ニエトによるもの、息子クーロ・サンチェスによるものの2本がありましたが、これは昨年撮影されたもので、家族から提供された豊富な写真、国営放送をはじめとする公演やインタビューなどの様々な映像をたっぷり使い、作曲家や研究者、アーティストら識者の証言もふんだんに取り入れたもので、全6回で、多角的にパコを捉えています。
昨年秋に公開されたものは、昨年ニューヨークで行われた、パコ・デ・ルシア・レガシーというフェスティバル中心でしたが、他の回では彼の軌跡を追い、彼が成し遂げたこと、その様々な功績などについても語っています。パコの子供達や甥でギタリストのホセ・マリア・バンデーラやカルラス・ベナベン、ルベン・ダンタス、ホルヘ・パルド、カニサーレス、ニーニョ・ホセーレといったパコの長年の共演者や、カレーテ・デ・マラガやペペ・アビチュエラといったパコと世代の近いアルティスタたち、ホセ・マヌエル・ガンボアやホセ・マリア・カスターニョ、クリスティーナ・クルスといった研究者たち、ラファエル・リケーニ、アルフレド・ラゴスらギタリストたち、その他にも作曲家など多くの人の言葉を丹念に拾っています。筆者も参加したのですが、パコの人生においても日本は大切な存在だったのだな、と改めて感じさせてもらえました。
今現在、カナルスールのWEBで公開されているものも日本からは視聴ができず、また日本で公開予定はないようですが、いつの日か日本でも見てもらえたらと思います。

【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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