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アルテ イ ソレラ舞踊団公演『恋の焔炎』

(domingo, 7 de abril 2024)

 

2023年10月17・18日

日本橋公会堂(東京都)


写真/川島浩之

Fotos por Hiroyuki Kawashima

文/金子功子

Texto por Noriko Kaneko


アルテイソレラ「恋の焔炎」 Ⓒ川島浩之

 フラメンコ舞踊家、鍵田真由美と佐藤浩希が率いるアルテイソレラ舞踊団の新作公演『恋の焔炎(ほむら)』が2日間にわたり上演された。今回の作品は日本舞踊とのコラボレーションで、特別出演として吾妻流・三世宗家の吾妻徳穂を迎えた。音楽面ではこの舞踊団にはもはや欠かせない存在となった津軽三味線奏者の浅野祥や、女流義太夫や太鼓など和楽器奏者も加わり、スペインと日本の誇るべき伝統芸能の融合により、新しい舞台表現の可能性を追求した意欲作となった。


 オープニングを飾った表題曲「恋の焔炎」は、力強い和太鼓の演奏から始まる。赤いドレスの女性団員らが登場し、鮮やかなスペイン舞踊とよく揃ったサパテアードを披露する。中里は日本語で、浅野が作詞・作曲した歌を熱唱。続いて鍵田と男性団員らも登場し、様々なフォーメーションを変化させた群舞を展開していく。舞台の上を赤いドレスで舞う姿は、まるで胸の内で燃え上がる恋の炎だ。リズム隊のキレも良く、会場の空気が熱く湧き上がる。


 佐藤のソロは、高村光太郎の詩集『智恵子抄』から、妻の亡き後を詠んだ「梅酒」という詩に、鶴澤三寿々が曲をつけた新作。智恵子が遺した梅酒についての語りに、三味線の音色が心に染みてくる。しんみりと踊る佐藤の姿に、光太郎の悲哀が浮かぶ。静かに始まるサパテアードは、シギリージャからブレリアへとリズムが展開。パルマと三味線が盛り上げる中で義太夫の歌が狂おしいほどの悲しみを歌い上げる。


アルテイソレラ「恋の焔炎」佐藤浩希 Ⓒ川島浩之

 曲と曲の合間には時折解説が入り、作品の理解を助けてくれる。

 「狐火」は、人形浄瑠璃や歌舞伎、日本舞踊の演目として上演される『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)〜十種香(じゅしゅこう)・奥庭(おくにわ)狐火(きつねび)』から着想を得た作品。戦国時代の名将、武田信玄の息子の勝頼と、信玄のライバル上杉謙信の娘で架空の存在といわれている八重垣姫が許嫁という設定に基づく物語だ。死んだと思っていた恋人が生きていたと知った姫君が、その命を救うために姫を守護する諏訪明神の使いの白狐たちに伴われて、氷が張った湖の上を駆けぬけてゆくという、信濃・諏訪湖の御神渡り(おみわたり)と呼ばれる自然現象を表現。白の衣装に身を包み神の使いの白狐となった女性たちが吾妻演じる姫君を囲んで舞う姿は、寓話の世界のようで幻想的だった。


 「玉手」は、日本舞踊家の藤間清継の脚本による『摂州合邦辻』を脚色したオリジナル作品。義理の息子である俊徳丸に継母の身でありながら想いを寄せる、玉手御膳の悲恋の物語だ。義太夫の歌と三味線に合わせて、病で目が見えない俊徳丸を松田が好演。最後は息子を助けるために己の身を切り絶命する玉手御膳を演じた鍵田の踊りは、愛ゆえの狂気が伝わるほどの凄みがあった。


 「愛の終焉」は、浅野が三味線を弾きながら歌う自作の日本語曲による工藤のソロ舞踊。ブレリアのリズムに和の雰囲気が香り、確かなリズム感と粒のそろったきれいな足音を響かせる。高い身体能力とともに、しなやかさとスピード感が光った。


 「蝶の道行」は、小巻と助国(すけくに)にという若い二人の亡くなった魂が蝶になったという義太夫作品の古典の型そのままにフラメンコのエッセンスを加えて新たな振付を施した。4組のカップルによる群舞は、蝶をイメージさせる腕を生かした舞踊表現が印象的だ。


 「秘想」と題したペテネーラは、フラメンコ舞踊の鍵田と日本舞踊の吾妻が互いの強みを生かしつつ、二つの伝統芸術の融合を表現した作品。赤の透き通る羽衣を巧みに生かしながら、まるでひとつの存在であるかのように演じ踊る二人の呼吸が素晴らしい。フラメンコギターのメロディーを踊る吾妻は楚々とした動きの中にも力強さがあり、三味線の演奏を踊る鍵田は美しくキレのある踊りで魅了した。


アルテイソレラ「恋の焔炎」鍵田真由美・吾妻徳穂 Ⓒ川島浩之

 舞台のフィナーレを飾るのは、浅野の作詞・作曲による「永遠のまにまに」。吾妻と鍵田がそれぞれの魅力あふれるソロを披露しながら、花吹雪の中で全員による群舞で幕を閉じた。


 休憩を挟まずに一貫して作品の世界観を表現し、フラメンコの技術と芸術性を日本の文化や伝統芸能に取り入れ和の要素との融合を目指した今回の公演。恋の歓びや輝き、嘆き、苦しみという、いつの時代も変わらない人間の本質を舞踊と音楽で表現するとき、そこに国境はないのである。



【プログラム】

1.  恋の焔炎

2.  梅酒

3.  狐火

4.  玉手 ~摂州合邦辻より~

5.  愛の終焉

6.  蝶の道行

7.  秘想 ~Petenera~

8.  永遠のまにまに


【出演】

主演 鍵田真由美

演出・振付・構成・主演 佐藤浩希

特別出演/日本舞踊 吾妻徳穂


義太夫

浄瑠璃 竹本越孝

三味線 鶴澤三寿々 鶴澤賀寿


津軽三味線 浅野祥

フラメンコギター 斎藤誠

和太鼓 坂本雅幸

附け打ち 山﨑徹

パルマ 関祐三子


客演 矢野吉峰 権弓美 松田知也


鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団

東陽子 工藤朋子 三四郎 柴崎沙里 中里眞央 小西みと 山﨑嬉星 小野寺麻佑 辻めぐみ


*義太夫:義太夫節の略。特に関西で浄瑠璃の異名。

*義太夫節:浄瑠璃の流派の一つ。17世紀終盤、大阪の竹本義太夫が人形浄瑠璃として創始。元禄時代(17世紀末~18世紀頭)に大流行し、各種浄瑠璃の代表的存在となる。

*浄瑠璃:三味線伴奏の語り物音楽の一つ。室町末期に始まり、初めは無伴奏で語られた。江戸時代の直前には三味線が伴奏楽器として定着。江戸初期以降、上方でも江戸でも庶民的娯楽として大いに流行した。

(*出典:岩波書店「広辞苑 第五版」より要約)


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