石井智子スペイン舞踊団公演
(sábado, 3 de agosto 2024)
2024年2月16(金)~18日(日)
日本橋劇場(東京)
写真/川島浩之
Fotos por Hiroyuki Kawashima
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
近代日本を代表する女流歌人、与謝野晶子の生涯をテーマとした劇場公演「みだれ髪 情熱の歌人・与謝野晶子」が上演された。この作品は3年前に初演されたが、そのときはコロナ禍で制限も多かったため、「もっと多くのお客様に観ていただきたい」「今の自分で、もう一度与謝野晶子の一生を踊りたい」という思いから今回の再演を決めたと言う。
作品の構成は、晶子の代表作である歌集『みだれ髪』を中心に、彼女が創作した詩の数々をモチーフとし、その人生や世界観をフラメンコ舞踊と音楽で多彩に表現している。
プロローグは、真っ暗な舞台でピンスポットに照らされた石井が、晶子の『恋』という詩を朗読する場面から始まる。ギターとチェロの演奏や、花や蝶を投影したプロジェクションマッピングの映像演出が美しい。
ピアノ前奏から始まるアレグリアス。後に夫となる与謝野鉄幹へ恋心を抱く晶子の、希望と若さ溢れる花盛りの娘時代を石井がソロで生き生きと踊る。
月と夜桜の映像演出が印象的な群舞のグァヒーラ。灯篭をひとつずつ灯しながら登場する娘たち。その舞う姿は夜の蝶のように神秘的で、乙女たちの密やかな宴が楽しそうに繰り広げられる。
晶子にとって恋と歌のライバルでもあった親友、山川登美子との絆を表現したカーニャ。バタ・デ・コーラの衣装にマントンを翻し、石井と南風野が姿勢の美しいパレハを魅せる。高い表現力で二人の別れと苦悩、怒りや悲しみが伝わる。
アストゥリアスの群舞では、婦人解放運動を推し進める当時の女性たちを表現。パリージョを奏でながら迫力ある大群舞を披露した。
鉄幹への愛に苦悩し他の女性への嫉妬に苦しむ晶子を演じた石井のシギリージャ。黒の衣装で髪を下ろし、ドラマティックな照明演出とともに激しい心の乱れを全身で表現。
女性たちが社会で活躍する喜びや恋の喜びを歌った歌集『太陽と薔薇』をモチーフとしたカンティーニャス。赤と白のバタ・デ・コーラで揃えた女性たちの晴れやかな笑顔がまぶしい。
最愛の夫を亡くし、悲しみと喪失に打ちひしがれる晩年の晶子を演じたタラント。ほとばしる感情を吐き出すように踊る姿は身体の動きも足の音も良く、とても最後の曲とは思えないほど。スタミナ切れになるどころかむしろ、より滑らかになって冴えていたように思う。最後の一瞬まで、晶子の人生を踊り演じ切った。
この作品で石井のソロは、パレハも合わせると4曲。ソロで踊るということは、その場面を自分一人で背負わなければならないから、舞踊表現も足の音も、全てを高い集中力で表現し続けなければならない。とんでもないスタミナと精神力だ。
また、そんな彼女を支える共演者たちの雰囲気がいい。ゲストダンサーも舞踊団員もミュージシャンも、頼もしい一体感がそれぞれのパフォーマンスから伝わってくる。
終演の3日後に石井は自身のSNSで、与謝野晶子というパワフルな女性を踊り表現したことを振り返り「1曲が終われば、倒れ込むようにフラフラで袖に入り、酸素を吸い、髪形を変え、早変わり。まさに命懸けの舞台でした」と打ち明けている。
全身全霊をかけて出演者やスタッフらと力を合わせて創り上げた舞台作品は、観る者に大きな感動を与えてくれた。晶子の生涯に寄り添った石井の真っ直ぐな想いは、きっと遠い空の向こうにいる彼女に届いている事だろう。
【出演】
石井智子
南風野香、井上圭子、中島朋子
石井智子スペイン舞踊団
(松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、樋口万希子、角谷のどか、梅澤美緒子、岡田美恵子、藤丸莉沙、栁沼芽以)
ギター:鈴木淳弘、今田央
カンテ:川島桂子、井上泉
ピアノ:野口杏梨
チェロ:矢口里菜子
パーカッション:朱雀はるな
【プログラム】
プロローグ
1. 自由に生きよ!自由に恋せよ!
(アレグリアス)
2. こよひ逢ふ人みなうつくしき
(グァヒーラ)
3. 白萩と白百合 -晶子と登美子-
(カーニャ)
4. 目覚めし女たち
(アストゥリアス)
5. 思ひ乱るる
(シギリージャ)
6. 太陽と薔薇
(カンティーニャス)
7. 寂寥 -エピローグ-
(タラント)
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