(lunes, 24 de febrero 2025)
2024年11月20日(水)・21日(木)
銀座ブロッサム中央会館(東京)
写真/大森有起
Fotos por Yuki Omori
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko

日本のフラメンコ界を代表する舞踊家、小島章司の劇場公演が2日間に渡り上演された。ここ数年はスペインや日本で行われる舞台に招聘されての出演が続いていたが、日本での自主公演開催は実に10数年ぶりだ。今作品の創作の原動力となったのは、句集『蒼茫』を著した俳人、森澄雄の言葉にインスピレーションを受けたことだという。
オープニングはバッハの名曲をチェロとバイオリンの二重奏で披露。そこにパーカッションやパルマ、ハレオとフラメンコのエッセンスを加えていく。小島は往年の名チェリスト、パウ・カザルス(1876-1973)の演奏を通じてバッハの作品に触れ、その深い信仰心と祈りは自身の人間形成にも影響を及ぼしたという。バッハの音楽に神の存在を感じ、戦争を嘆き平和を願い続けたカザルスへの想いを捧げる曲だ。
カンテソロのカルタヘネーラス・イ・タランタス。チクエロの重厚なギターの音色に円熟味溢れるダビの歌声、そして艶やかで張りのあるロンドロの歌声が合わさり、哀愁を帯びて心に染みてくる。
揃いの緑のバタ・デ・コーラと茶系のマントンで踊る5人の群舞は、詩人ガルシア・ロルカの『三つの河の小譚詩』を歌ったブレリア。広い舞台にマントンを生かしたダイナミックな構成。ブレリアのグルーヴも楽しく、フォーメーションも工夫され美しくまとまり見応えがあった。

『チクエロの贈りもの』と題したギターソロは、テンポの速いブレリア。息子のディエゴもセカンドギターで父を支える。疾走感あるスピード、粒の立った音色、リズミカルで鮮やかな指さばきが繰り出すメロディーにパルマも楽しそうだ。
クラシコ・エスパニョールの代表格でもあるラ・ビダ・ブレベは、小島がスペイン留学中にビクトリア・エウヘニア(ベティ先生)から初めて習い、帰国後にはTV番組や数々の公演で披露するなど、たくさんの思い出を与えてくれた作品だという。今回は舞踊団の主要メンバーとして活躍する柳谷と松田が踊り、見事なパリージョや華麗なブエルタとともに伝統的な美しさを堪能させてくれた。
ファルーカは、今回客演として出演した知念響、漆畑志乃ぶ、石川慶子の3人で結成したユニット、ARMONÍAによる群舞。独白のようなダビの歌から始まり、弦楽器が醸し出すハーモニーが曲の世界へと誘う。深い哀愁を込めたロンドロの歌に、力強くキレの良い群舞を披露。定番のモチーフにオリジナリティが感じられるアレンジが加わり、新鮮な魅力を楽しめた。
ミュージシャンらによるステージは、ヘレス起源とされる王道のブレリア。ソニケテ溢れるグルーヴが回り続け、出演者らの熱量も伝わり期待の十二分以上に楽しい時間となった。
最後は小島の舞台。チェロの深い音色がほの暗いイメージを醸し出す。リビアーナを歌うダビ。そして小島が青緑色の長いマントを引きずりながら舞台に現れる。その蒼蒼としたマントに、どこまでも広がるような無限の象徴を見る。ダビが小島からマントを取り、トナを歌う。シギリージャを踊る小島は、真摯で、誠実で、無欲だ。己の持てる全てを踊りに捧げている。
そしてチェロの音楽が響く中、舞台中央に座り込む小島。心からの祈り。そこに群舞の5人も寄り添い、ともに平和への願いを捧げるかのように舞台の幕を閉じた。
「舞踊家は自分の考えを貫き、精一杯を尽くして、踊り続けるしかないではないか。」
今回の公演フライヤーに寄せた文章の中で、小島はその信念を打ち明ける。どれだけの経験と実績を積み上げても今なお尽きる事のない創作意欲と、フラメンコという舞踊に込めた祈りを抱き、一舞踊家としてこれからも踊り続けていくことだろう。

【プログラム】
・バッハに捧げる音楽
・カンテソロ カルタヘネーラス・イ・タランタス
・ブレリアス(知念響、漆畑志乃ぶ、石川慶子、柳谷歩美、松田知也)
・チクエロの贈りもの ギターソロ
・ラ・ビダ・ブレベ(柳谷歩美、松田知也)
・ファルーカ(ARMONÍA)
・ブレリアス
・小島章司『蒼茫』を舞う
(リビアーナ、トナ-シギリージャ、「鳥の歌」)
【出演】
小島章司(作・構成・演出・主演)
チクエロ(音楽監督・ギター)
エル・ロンドロ(カンテ)
ダビ・ラゴス(カンテ)
ディエゴ・デル・チクエロ(ギター)
カルロス・カーロ(バイオリン)
マルタ・ロマ(チェロ)
ハコボ・サンチェス(パーカッション)
ARMONÍA アルモニア(バイレ/知念響、漆畑志乃ぶ、石川慶子)
柳谷歩美(バイレ)
松田知也(バイレ)
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