中原潤×JITAN.フラメンコライブ
(viernes, 30 de agosto 2024)
2024年3月8日(金)
銀座 王子ホール(東京)
写真/飯田利教
Fotos por Toshinori Iida
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
フラメンコダンサーの持つ「光と影」という二つの側面をテーマとした、中原潤によるフラメンコ公演『LOS 4 FLAMENCOS "LUZ Y SOMBRA"』が上演された。
主役は4人の若手ダンサーたち。各々の個性や生きてきた背景は異なるが、それぞれに磨き上げてきた舞踊技術を武器に、群舞にソロにと素晴らしい舞踊を披露した。
オープニングは4人の群舞から。薄暗い舞台にエフェクトがかかったギターの音色が響き、幻想的な空間を演出する。
舞台の下手側に置かれた長椅子に 、片足を伸ばして座り込む鈴木。
そして客席の後方から、左右の客席通路を通って土方と中原が登場する。それぞれ手にしたハンドライトで壁や天井を照らしながら、舞台へ向かってゆっくりと歩いていく。舞台に上がるとそこに出水も登場、見守るかのように3人で鈴木を囲む。
4人の衣装は白黒のモノトーン基調で、照明の陰影の効果をより際立たせる。製作を担当したのは、自身も踊り手として活躍する河島ティヤナ。作品の世界観をより良く表現できるようデザインしたという。
有田が舞台に登場、力強い歌声が場内に響き渡る。そして3拍子、4拍子、5拍子と変化する音楽のリズムとともにボルテージも高まり、4人の踊り手の秘めた熱量が沸々と湧き出るような群舞として昇華される。
続いて中原のソロはティエント。有田の熱唱を全身で受け止め、感情が肉体を越えて溢れてくるような踊りに目を奪われる。
今回の舞台にギタリストとして出演した閑喜は、演奏のみならず編曲や作曲家としても活躍する新進気鋭のアーティストだ。軽やかにらららと口ずさみながら、斬新でいてどこか清涼感のあるギターソロを演奏。フラメンコの熱い空気を整えるような一曲となった。
土方のソロのガロティンは、ギター3人の伴奏のみの作品。上品でいながら色香も感じられ、華やかさの中に哀愁が漂うような踊りを魅せた。
下手側の長椅子に徳永兄弟とKANが座ると、ギターとカホンで熱いグルーヴの演奏を披露。場内から大きな拍手が起こる。続く出水のタンゴは、これぞ「タンゴの王道」とうれしくなるような溜めとノリの良い踊りを楽しませてくれた。
徳永兄弟のオリジナル曲「共鳴~resonancia~」では、閑喜の音や歌も加わり三人三様のギターの化学反応が起こる。KANのパーカッションソロも、完璧なリズム感で様々な音色を叩き出すプレイは圧巻の一言。
続く中原のソレアは、深い苦悩を湛えながらも美しかった。
中原と入れ替わりで登場した出水と鈴木によるブレリアは、フラメンコの醍醐味が詰まったワンシーン。それぞれのひと振りがまた見応えがあって楽しい。
徳永兄弟のオリジナル曲のロンデーニャから始まる、白の衣装の土方と黒の衣装の中原による、光と影の共演。土方から白木のバストンを中原が受け取る場面は、互いの想いが受け継がれるようで胸が熱くなった。
そして鈴木のソロはシギリージャ。その渾身の踊りは、壊れそうなくらいに全力を捧げていた。
最後の群舞はアレグリアス。中原と土方が左右から登場。二人の踊りはまるで会話しているみたいで、鏡写しのように息が合っている。そこに出水と鈴木も加わり、次々とフォーメーションを変えながらも阿吽の呼吸で踊り続ける。
人はこんなに自由に踊れるのか。もちろんこの本番までは、人知れず地道な努力の積み重ねがあったことだろう。その長い道のりの先に大きく花開いたこの一瞬に、静かな感動を覚えた。
ラストは仲間の愛を感じるシーン。鈴木を支えるようにハンドライトを手にした3人がその道筋を照らしながら、有田の歌に見送られて歩きだしていく。その場面は、仲間を見守り思いやるあたたかい優しさに満ちていた。
スポットライトに照らされて踊るダンサーの華やかな「光」の部分と、その裏側で自分自身の踊りを模索し葛藤する「影」の部分を表現したという今回の作品。この作品を通して、ミュージシャンとダンサーが互いにコミュニケーションを取り合いながら作り上げていく「フラメンコ」ならではの「人と人とのつながり」や「暖かさ」を感じてもらいたい、と中原はプログラムのあいさつ文で語った。彼のフラメンコに対する誠実な情熱は、確かに観客の心に伝わったことだろう。
[出演]
ダンス:中原潤 JITAN.(鈴木時丹) 出水宏輝(Farolito) 土方憲人
ギター:徳永兄弟 閑喜弦介
歌:有田圭輔
パーカッション:KAN
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