(domingo, 8 de diciembre 2024)
毎年マドリードで行われる大規模なフラメンコフェスティバル、『スマ・フラメンカ』が8月から11月にかけて開催されました。
若手アーティストらに焦点を当てたプログラムや、学術的な講演会や展示会、そしてメインとなるコンサートシリーズと、見どころも満載。
そのプログラムのラインナップや注目の作品などについて、20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子さんがリポートします。
『スマ・フラメンカ 2024』フェスティバル
2024年8月12日-11月3日、マドリード、スペイン
Festival SUMA FLAMENCA de Madrid 2024
12 agosto - 3 noviembre 2024, Madrid, España
文:東 敬子
画像:宣材写真
Texto: Keiko Higashi
Fotos: material promocional
《INDEX》
燃え上がるような夏・真っ盛りから、爽やかな空が広がる秋にかけて、マドリードをフラメンコ一色に彩った「スマ・フラメンカ」フェスティバルは、今年もカンテ、ギター、バイレ全てを網羅した充実のプログラムで観客を沸かせました。
19回目を迎える今回は、まずは前哨戦として、30歳以下の若手をフィーチャーした「スマ・フラメンカ・ホベン」(8月12日〜15日)が行われ、その後「オリエンテ・フラメンコ 〜ロンダからカルタヘナへ〜」と題し、アテネオ会館にてフラメンコ学の講演会とそれに伴う演奏会や展示会(10月1日〜5日)、そしてコンサートシリーズ「スマ・フラメンカ」(10月15日〜11月3日)が開催されました。「スマ・ホベン」では計4公演、12組のアーティストが、残りの期間では計45公演が行われ、うち15公演が世界初演となりました。
若手にチャンスを
大御所がひしめく現在のフラメンコ界で、若手がソリストとして頭角を表すのは至難の業。ゆえに、そんな彼らに焦点をあて、その輝きを大舞台で披露するチャンスを与えてくれるのが「スマ・フラメンカ・ホベン」です。4回目となる今年は8月12日より4日間マドリードのカナル劇場にて行われ、毎日カンテ、ギター、バイレのアーティストが紹介されました。
カテゴリー毎に紹介しますと、カンテでは、ロシオ・ルナ(コルドバ)、モレニート・イホ(カディス)、ガブリエラ・ヒメネス(マドリード)、トマス・ガルシア(グラナダ)の4人。
ギターのソリストでは、マヌエル・エレラ・イホ(セビージャ)、アントニオ・ゴンザレス(カディス)、ビクトール・フランコ(カディス)、エル・ポティ(グラナダ)。
そしてバイレには、マヌエル・ヒメネス(コルドバ)、ルシア・ラ・ブロンセ(セビージャ)、サイラ・プルデンシオ(バダホス)、パトリシア・ドン(バルセロナ)がラインナップ。
まだ余り知られていないアーティストたちですが、その名を全国区に広げる良い機会になったのではと思います。
ロンダからカルタヘナへ
アテネオ会館では10月1日から5日まで、今年のフェスティバルテーマに沿ったフラメンコ学の講演が行われました。昨年のフェスティバルのレポートで私は「いつも同じメンツ」と苦言しましたが、今年は打って変わって「目新しい」講演者たちが勢揃いし、興味をそそりました。
各講演ではそれぞれミニコンサートも行われ、セオリーだけでなく、それを体現する歌を最後に聴くことで、より理解を深めることが出来る構成でした。初日はラモン・ソレールによる「マラガ・ラ・カンタオーラ」講演。テーマに沿ってマラガ出身のボネーラ・イホがその喉を披露します。グレゴリオ・バルデラマの「ハエン、カントーラとミネラ」講演ではハエン出身の歌い手ラウラ・マルチャルが。三日目のアントニオ・セビジャーノ「アルメリア・ドラダ」講演では、ギタリストのホセ・デル・トマテのトリオによる演奏が華を添えました。そして歌い手アントニオ・カンポスの「アイレス・デ・グラナー」講演では彼自身が、同じく歌い手クーロ・ピニャーナの「ラ・ウニオンからカルタヘナへ」講演でもピニャーナ自身がその歌声で締めました。
また並行して10月1日から29日まで、「エル・フラメンコ・エン・ラ・ドラマティカ・ルナ・ネグラ」と題したエクスポジションも行われ、1890〜1960年の貴重な音源を有するカルロス・マルティン・バジェステールのコレクションから、フラメンコの黄金期を創ったラ・アルヘンティーナ、マヌエル・バジェホ、アントニオ・マイレーナなどの歌声が披露されました。
豪華アーティストの競演
若手からベテランまで、第一線で活躍するアーティストが勢揃いした、フェスティバルのメインアクトである「スマ・フラメンカ」は、マドリード市内、エル・エスコリアル、ラスカフリア、ラ・カブレーラの4箇所で開催されましたが、1ヶ月前にチケットを取ろうとしたけどすでにソールドアウトだらけだったと嘆く人もいて、改めてその人気を実感しました。
カンテは例年通りの充実ぶり。ヘレスと言ったらこの人のトマシートや、同じぐらいヘレスを全身に背負ったマリア・テレモート。グラナダの味たっぷりのマリナ・エレディア、そしてペドロ・エル・グラナイーノ。中堅で手堅いエセキエル・ベニテスやパコ・デル・ポソ、独特の感性でファンも多いエル・ファロと言った実力者達が名を連ねます。フェスティバル常連の大御所ビセンテ・ソト・ソルデーラ、アウロラ・バルガス、今フェスティバルのトリをとったカルメン・リナーレスもまだまだその勢いを止めてはいません。
ギターでは、世界初演となったビセンテ・アミーゴ、ペペ・アビチュエラの公演を筆頭に、29歳の若手ジェライ・コルテス、クラシックギター出身のホセ・マリア・ガジャルドとタッグを組んだミゲル・アンヘル・コルテス、女性ギタリストのアントニア・ヒメネスらが、様々な視点で深掘りしていきます。
バイレでは、実力派マルコ・フローレス、パトリシア・ドン、ルシア・カンパージョらのモダンなバイレ。それと対照的なベレン・ロペスのコテコテのフラメンコも。ベテラン、フアナ・アマジャ、カルメン・タレゴナ、ホアキン・グリロが観れたことも、往年のファンにとっては嬉しい限りでしょう。
また今回は、フラメンコ・ジャズの第一人者ホルヘ・パルドのトリオ、開かれた音楽を追求するアグスティン・ディアセーラとフアンフェ・ペレスのデュオ、ハープでフラメンコを奏でるアナ・クリスマンなど、フラメンコへ独自のアプローチを見せるアーティストも揃いました。
特出したい5公演は…
それでは、私が最も観たいと思い、やっとの思いで席を勝ち取った5つの公演をご紹介しましょう。
まずはギタリスト、ヘラルド・ヌニェスの「ギターラ・デスヌーダ」公演(10月16日、カナル劇場・緑の間)。伝統に縛られないスタイルで一時代を築いた彼が、今公演ではリカルド・モレーノ、ボリータ、ヘロニモ・マジャ、カニート、アルバロ・マルティネーテの5人のギタリストたちと共演します。それぞれのスタイル、そしてヘラルドとのデュオを楽しめるギター三昧のコンサートでした。
そして今回の作品で観客にさようならを告げる、これまでの集大成となった「バイレの女神」マヌエラ・カラスコの「シエンプレ・マヌエラ」(10月17日、カナル劇場・緑の間)。彼女の娘たち、サマラとマヌエラも出演するこの作品は、感動的の一言でした。まだツアーは続いていくようですので、機会があればぜひ観てほしい作品です。
ギタリスト、アルフレド・ラゴスと踊り手ベレン・マジャによる「ラ・ポエタ」(10月26日、カナル劇場・黒の間)は、ベレンの壮絶な実体験から生み出された心に迫る作品でした。アルフレド・ラゴスの彼女を包み込み・支えるギターは聞き応えがあり、パーカッショニストのアンドレイ・ヴジチッチとベレンの新しい挑戦は、目を見張るような驚きがありました。
踊り手ロシオ・モリーナの「クアドラール・エル・シルクロ」(10月30日、カナル劇場・赤の間)は、今回が世界初演だったこともあって大いに期待していました。しかし私は観ていて文句が止まらなくなってしまい、今回はがっかりと言わざるを得なかったのが残念です。
最後は人気急上昇中のカンタオール、イスラエル・フェルナンデスの「エル・ガジョ・アスール」公演(11月2日、カナル劇場・赤の間)をご紹介しましょう。アルバム「プーラ・サングレ」でラテン・グラミーにノミネートされるなど話題の彼ですが、歌い終わるたびに大喝采が起こるのを目の当たりにして、「そんなに!?」と、その人気に驚いてしまいました。
それぞれの詳しい公演レビューは、今後リンクしていきますのでお楽しみに。来年もまた最高に面白いフェスティバルになるよう期待して止みません。
【筆者プロフィール】
東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。
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