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新・フラメンコのあした vol.16

(lunes, 3 de junio 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月も、昨年秋にマドリードで行われた第18回「スマ・フラメンカ」フェスティバルで上演された作品から、アンドレス・マリンの舞台についてのリポートです。

 

アンドレス・マリン

『ハルディン・インプーロ』

「スマ・フラメンカ」フェスティバル

カナル劇場・赤の間、マドリード、スペイン

2023年11月4日

 

Andrés Marín

“JARDÍN IMPURO”

Festival Suma Flamenca 2023

Teatros del Canal - Sala Roja, Madrid

Sábado, 4 de noviembre, 2023

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材 

Texto:Keiko Higashi

Fotos:Promoción


アンドレス・マリン スマ・フラメンカ2023 東敬子連載2024.6月

Andrés Marín, baile

José Valencia y Segundo Falcón, cante

Salvador Gutiérrez, guitarra flamenca

Dani Suarez, percusión

Raúl Cantizano, artista sonoro

 

 アンドレス・マリンと言えば、いわゆる「モデルノ」のスタイル、伝統的な様式に縛られないバイレのイメージが強いですよね。

 

 伝統を守るアーティストがいる一方で、フラメンコに自由を求める彼らは、2000年代に大きなブームを起こしました。

 

 フラメンコ以外の音楽でフラメンコの振りを踊ったり、逆にフラメンコの音楽に他ジャンルの舞踊スタイルを合わせたり。無伴奏や機械音を使ったり、舞踏みたいに極端に動きを制御したり。

 

 イスラエル・ガルバンとロシオ・モリーナと言うこの分野のツートップに先駆けて、フラメンコ舞踊の可能性を追及して来た彼はまさに、その先駆者的存在であると言えるでしょう。

 

 まあ、踊り手にとっては創造の自由を謳歌した結果であっても、観客にとっては、プログラムに「フラメンコ」と載せるには、「看板に偽り有り」と言いたくなる場合が多々あったのも事実で、この分野が評論家や世間一般に認められるには20年以上かかりました。

 

 ただ2020年代の今では、こう言った「新しい挑戦」を押し出す「モデルノ」は少なくなり、全体的に、以前「モデルノ」をやっていた人も含め、伝統的なフラメンコを少しスタイリッシュにアレンジして提唱するのが主流となっています。しかしアンドレスは今でもガチ。55歳にして今もなお、更なる挑戦を続けています。

 

 彼の踊りは、フラメンコではないかも知れない。でも同時に、フラメンコ以外の何物でもない。彼の踊りを「ダンス」と表現できない理由は、自由な心を持ちながらも、フラメンコに縛られているその精神があるからこそ、なのです。

 

 前作『カルタ・ブランカ』(2020)に新しいエレメントを加え、今回「スマ・フラメンカ2023」フェスティバルでマドリード初演された『ハルディン・インプーロ』(2021)では、好奇心ゆえにエデンの園を追放された彼の、更なる好奇心と自由の広がりを表現しています。

 

 しかし私がこの作品に感じたのは無限の自由ではなく、限られた空間に生きる人間(=フラメンコ)が持つ、自由に生きる獣や鳥達への憧れ、の様なものでした。私は思います。庭(ハルディン)は無限の空間ではないからこそ、その好奇心には意味があるのだと。セグンド・ファルコンやホセ・バレンシアの地に根を張る歌が彼をとらえて離さないからこそ、彼の心はその美しさに宙を舞い、サルバドール・グティエレスのギターの音色に引き留められるからこそ、空の青さを咲き誇る花のアロマと共に感じる事ができるのです。


アンドレス・マリン スマ・フラメンカ2023 東敬子連載2024.6月

 1969年セビージャに生まれたアンドレスは、父の舞踊学校で幼少よりフラメンコを学びます。バイレだけでなく歌の才能にも恵まれた彼は、その伝統に首までドップリ浸かって自身の感性を育んできました。

 

 そんな彼は、伝統的なスタイルより、自身の創造を選びました。でも彼の仕草を見ていると、とても不思議な気持ちになります。全くフラメンコの動きではなくても、腕を自然にプラっとしているだけでも、フラメンコを感じるのはなぜなのでしょう。

 

 そしてロックや何かの雑音に合わせて動いても、同じ事を感じてしまう。やっぱりフラメンコなんです。

 

 彼が持つ緊張感、いや、何かへの危機感が、フラメンコを湧き立たせるのでしょうか。その攻めの姿勢が、外への壁を叩き続ける事が、彼の目前に壁がある事こそが、彼をフラメンコにさせるのだと、私は思うのです。

 

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。

 

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