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新・フラメンコのあした vol.14

(lunes, 1 de abril 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は再び、昨年秋にマドリードで行われた第18回「スマ・フラメンカ」フェスティバルで上演された作品から、サンドラ・カラスコとダビ・デ・アラアルのステージについてのリポートです。

 

サンドラ・カラスコ&ダビ・デ・アラアル

『レコルダンド・ア・マルチェーナ』

「スマ・フラメンカ」フェスティバル

カナル劇場・黒の間、マドリード、スペイン

2023年10月28日

 

Sandra Carrasco & David de Arahal

“Recordando a Marchena

Festival Suma Flamenca,

Teatros del Canal - Sala Negra, Madrid.

28 de octubre 2023

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材  /  東 敬子

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción / Keiko Higashi

 

 

 「悲しみに暮れている私に、瀕死の父は言いました。サンドラ、悲しまないで。さあ、マルチェーナを歌っておくれ」

 そして彼女は今も、マルチェーナを、フラメンコを、歌い続けています。亡き父の言葉に支えられながら。

 

 私がサンドラ・カラスコのカンテを初めて聞いたのは、もう20年近く前だったと思います。当時はまだ20代前半だった彼女からは、正直なところ「ちょっとエストレージャ・モレンテ風の歌い方の金髪美人」ぐらいの印象しか受けませんでした。しかし、それから10年程経って彼女が30代に突入した頃から「あれっ?」という嬉しい驚きを感じるようになり、今やサンドラの名をプログラムに見れば、「間違いなし」と思えるぐらい、素晴らしい実力派歌手へと変貌を遂げました。本当に努力は人を裏切らないものですね。それを彼女から教えてもらったような気がします。

 

 1981年生まれの42歳。今が旬の彼女は、ウエルバ出身らしく、伸び伸びとした、力強い、そして女性らしい歌声を持っています。舞踊団での歌唱のほか、ソリストとしては現在までに4枚のアルバムをリリース。現代カンテを代表する一人です。今回「スマ・フラメンカ2023」フェスティバルの一環として、『レコルダンド・ア・マルチェーナ(マルチェーナに想いを馳せて)』を公演。カンテの名匠ぺぺ・マルチェーナ(1903ー1976)の歌を、相棒ダビ・デ・アラアルの若いフレッシュなギターと共に現代に甦らせます。

 

 マルチェーナは、「オペラ・フラメンカ」と称される時代を代表し、コロンビアーナを創作した人でもあります。サンドラは、彼が得意としたタランタやマラゲーニャ、そしてブレリア、ソレア、アレグリアス、ペテネーラなど、衣装を変えつつ歌い綴ります。

サンドラ・カラスコ 2023年スマ・フラメンカ・フェスティバル
©Keiko Higashi

 通常は舞台中央に、歌い手が客席から見て左側、ギタリストが右側に並んで座るところを、今回のステージでは、中央奥に飾られたマルチェーナ風のジャケットや帽子を掛けたハンガーを中心に、左側はチェロのホセ・ルイス・ロペスとパルマのロス・メジスの二人。右側はサンドラとダビというセッティング。これもマルチェーナへ敬意を捧げる意味合いがあるのでしょうか。

 

 そしてサンドラはずっとスタンドマイクで立って歌っていたんですよね。うーん、何か落ち着かない。このスタイルは最近流行ってる感じですが、出来れば座ってじっくり歌ってほしいなと思う私でした。

 

 そして今回は、普通のコンサートとは違うなと感じたことが、もう一つありました。それは彼女が自分よりも、ギターのダビを主役に押し出している感が強かったことでした。カンテが主役でギターは伴奏の感覚が普通ですから、これは不思議でした。あくまでも「二人の作品」という姿勢の現れなのかなと思います。

 

 ただ、私は常に歌い手こそが主役であってほしい。わがままであってほしい。歌が引っ張ってくれてこそ、仲間は自身を奮い立たせることが出来るのだと思うのです。彼女は後半、少しずつ無我の境地に入り、自我を爆発させていきました。図らずも、それが感動的な最後に到達できた理由だったと思います。

 

 最後に、ギターのダビ・デ・アラアルの事も少し触れておきましょう。2000年セビージャ生まれの彼のギターに、私が初めて触れたのは、コロナ禍にアントニオ・カナーレスが主催して行われたインスタグラムのライブ配信ででした。当時二十歳そこそこの彼は、自宅からソロで数曲弾いてくれたのですが、とても良い印象を受けました。作曲が素晴らしく、ずっと聴いていたくなる軽やかでメロディアスなトーケ。

 

 現在は、サンドラのほか、ミゲル・ポべダなどの伴奏も勤めます。ソリストとしては、2021年にファーストアルバムをリリース。ただ、録音は少し優しすぎる感じがして、それよりもライブの方がエネルギーがあって彼の良さがもっと感じられると思いました。まだ23歳。これから大いに期待が持てるギタリストだと思います。


【Discografía/ディスコグラフィー】

Sandra Carrasco:

La luz del entendimiento (2020)

Travesía (2015)

Océano (2014)

Sandra Carrasco (2011)

 

David de Arahal:

Mar Verde (2021)

 

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。

 

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