第8回 中里眞央
【カンテ部門/奨励賞】
(viernes, 9 de junio 2023)
フラメンコを志し、さらに高みを目指すために目標として掲げられる大舞台、新人公演。
昨年の入賞者に、挑戦へのきっかけや本番までの道のり、自身の経験や思い、これから挑戦する人に伝えたいことなどを語ってもらいました。
第8回目は、カンテ部門で奨励賞を受賞した中里眞央さんです。
編集/金子功子
Edición por Noriko Kaneko
2019年以来、コロナ禍で中止となった2020年を除き、毎年バイレソロとカンテソロの2部門でエントリーしていた。そして2022年夏、私にとって3度目の新人公演!
さまざまな感情渦巻くなかのZEROホール。毎年プレッシャーと緊張のせいで、出なければよかったと思いながらも、いつもここに戻ってきてしまうなぁ。プラスやマイナス、ポジティブやネガティブ、そんなふうに容易に分類できないものばかりを抱え込んでいる。ただ一つその携えた塊を、容易く弾けて拡散しそうな熱を、うまく自分のものにしなければならない舞台であることは確かだった。
私の所属舞踊団ARTE Y SOLERAの公演のために来日していたへレスのギタリスト、アントニオことマレーナ・イーホ。多忙を極める彼と運よく予定を合わせることができ、2部門とも伴奏を依頼することになった。自分のソロ演目でアントニオを独占できるなんて、なかなか無い機会だ。何が楽しみかって、アントニオと過ごせる公演当日までの時間が楽しみだったのだ! とにかくヘレスの空気を感じたくて、アントニオが来日してから毎日一緒にいた。毎日ご飯を一緒に食べた。夜、師匠や舞踊団の先輩方と食卓を囲みお酒が進んでくると、歌ってみよう!という時間がやってくる。おもむろにギターを弾きだすアントニオ。歌う私。日々を共にしながら、食事だけでなく様々なものを皆で味わってきた。そして味わったものを身体中に、表現の全てに巡らせたのだ。
それ以外でアントニオとカンテのいわゆるギター合わせをした時間は無かった。果たしてあれがエンサージョと呼べるものだったのかは、わからない。それでもあの空気を、あの時間を味わわなければ、受賞という結果はなかったと確信できる。1人だけで作り上げる舞台ではない。あの場に満たした空気、そのほんの一部でも異なっていたら同じパフォーマンスはできなかった。そしてそれを私と共に構築してくれたのは、間違いなく彼らだ。ただ、それは彼らと一緒にいただけで叶ったことではない。あの場の私には責任があった。舞台を作り上げるため、先頭に立つ責任だ。
一つの目標に向かって邁進すること。そこで得られる過程や結果はもちろんだが何より重要なのは、自分が舞台の主体となる責任感や、当事者意識を学べることだと感じている。月並みな表現かもしれないが、あの場は貴重な経験を与えてくれる。先生がついていてくださる発表会とはまた違うのだ。自分自身がミュージシャンを率いる代表者なのだという自覚。周りに支えられながら、一人では叶わないと知りながら、それでもこの体そのものを突き動かすのは私自身に他ならない。お客様からお金をいただいてパフォーマンスするということ。楽屋の使い方。本番までの過ごし方。その学びは踊り手、歌い手としての舞台上での在り方にも現れると私は思う。学びの全てを生かし切ってこそ振り絞れる力があり、自身の成長にも意識を向けていられる。だからこそ受賞という結果が届いた時の、救われたという感覚は、私にとって忘れがたいものになったのだ。
普段タブラオに出演することの少ない私にとって、新人公演は様々なご縁を繋いでくれた機会だった。感謝してもしきれない。これからも私は様々な経験を積んでいくことになるだろう。その日々の中で仲間たちと同じ釜の飯を食らい、心技体ともに自らを磨き、舞台に上がる。嫌になることも不安に煽られることもたくさんあるが、あの場でだけは仁王立ちして立ち向かっていけたらと思う。ともすれば弱そうに見える立ち姿から、迸る(ほとばしる)ほどの圧を放てるようになりたい。その未来に一歩ずつ近づけていけたら、と思うのだ。
(写真)Ⓒ大森有起
【プロフィール】
中里眞央(Mao Nakazato)/東京都出身。12歳より鍵田真由美・佐藤浩希に師事。2015年より同フラメンコ舞踊団ARTE Y SOLERA団員として、スペイン3都市を巡る『カスティーリャ・ラ・マンチャツアー』、平成天皇皇后陛下の御臨席を賜った『Ay曽根崎心中(新国立劇場)』などの主要公演に出演。その他、歌い手、踊り手として歌舞伎やミュージカルまで活動の幅を広げている。2020年度河上鈴子スペイン舞踊新人賞。2022年度ANIF新人公演カンテ部門奨励賞。2023年全日本フラメンココンクールカンテ部門優勝。
【新人公演とは】
一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。
プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。
バイレソロ、ギター、カンテ、群舞の各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。
(*一部、ANIF公式サイトより引用)
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