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スペイン発☆志風恭子のフラメンコ・ホットライン

(miércoles, 6 de septiembre 2023)


文/志風恭子

Texto por Kyoko Shikaze


 相変わらずの暑さです。セビージャも8月はほとんどの舞踊教室もお休みとなります。いくら冷房があっても最高気温40度以上ではきつすぎます。またセビージャの人たちの多くも海などバカンスに出かけ、いつもは路上駐車が難しい地区でも簡単にできたりします。かつては8月はバルや商店なども休むところが多くてがらーんとした感じだったのですが、最近は順番に休むなどして開いている所も多いですね。観光客も見かけますが、名所巡りをするなら比較的涼しい午前中しか動けないこの時期は避けたほうが賢明かと。ま、午前中に名所見て、14時ごろに冷たいビールか、冷えた白ワインと共にたっぷりめのお昼を食べてシエスタして、夜22時ごろにタパ食べに行く、と言うのもスペインらしくて悪くないかもしれません。あ、昔のタブラオは22時から、0時以降がいい、とか言われていましたが、今は19時と21時ごろの2回というところが多いのでその前にフラメンコ、ですかね。


【野外公演その2】

 セビージャでは毎夏、Noches en los jardines del Real Alcázarアルカサル庭園の夜、と題したコンサートが毎日、行われています。今年で24 回目。かつての国王の居城で今も王室の管理下にあるアルカサルはカテドラル(大聖堂)、インディア古文書館とともに世界遺産となっているセビージャの名所中の名所。イスラムとキリスト教文化が混ぜ合わさったムデハル様式の代表的建築物のひとつで、美しいタイルが印象的。池や回廊のある庭園も素晴らしく必見の名所なのですが、その一角で6月下旬から9月上旬まで毎夜、コンサートが開催されているのです。

 演目は日替わりで、ピアノやギターなどによるクラシックもあれば、古楽あり、ワールドミュージックあり、ジャズあり、という中でもちろんフラメンコのコンサートもあります。毎年、フラメンコ公演は人気で、かつてブレイク前のロサリアがアルフレド・ラゴスの伴奏で登場したことも。今年も若手からベテランまで9つのグループが登場。ピアノ・フラメンコが3公演、ギターソロが2公演、フルートとギターの公演が1、そしてカンテ公演が9公演という具合。


 7月22日に行われたコルドバ出身のギタリスト、ホセ・アントニオ・ロドリゲスのリサイタルはギター一本での文字通りのソロ公演。

ホセ・アントニオ・ロドリゲス
©︎Actidea

 ベテランらしい落ち着きで、いつもながらの聴きやすい心地よい演奏で観客を魅了しました。

 プラグがついているエレアコ(エレクトリック・アコースティックギター)での演奏だったのはちょっとびっくりしたけど、パコ・デ・ルシアがアル・ディメオラらの『地中海の舞踏』へのオマージュ的な『ダンサ・デル・アマネセル(夜明けの舞踊)』ではエフェクターでエレキギター的な音を出すなどしていて、近年ホセ・アントニオはソロでアメリカ公演などしていることもあって、一人でどう魅せるか聴かせるか、を学んだんだろうな、と思ったことでした。 


 7月24日にはウエルバ出身の歌い手サンドラ・カラスコがダビ・デ・アラアルの伴奏で歌う、『レコルダンド・ア・マルチェーナ』。

サンドラ・カラスコ
©︎Actidea

 美しい高音で知られる歌い手ぺぺ・マルチェーナへのオマージュでその広いレパートリーからブレリア、ミロンがなどを次々と歌い継いで行きました。いつもながら、サンドラは完璧な音程で繊細な節回しも丁寧に歌っていきます。各地で公演を重ねているだけあって、伴奏も落ち着きがあり、相性もぴったりという感じ。ダビは昨年、同じ会場でマヌエル・デ・ラ・トマサの伴奏でも登場したのですが、文句なく若手を代表するギタリストと言えるでしょう。これからまたどんどん経験を積んでどんな展開を見せていくのか楽しみです。

ダビ・デ・アラアル
©︎Actidea

 なお、この公演はアルカサルの入り口ではなく、反対側、ムリーリョ庭園のはしにある入り口から入ります。22時開演の1時間前から開いていますので、陽が落ちて涼しくなってくる頃の庭園散策も楽しめます。入場券は売り切れのことが多いのでWEBから購入しておくのがいいでしょう。

 また、7月21日から26日まで開催されたセビージャ市トリアーナ地区の夏祭り、ベラ・デ・トリアーナでも広場で開催される(よって入場無料)フラメンコ公演も行われました。

 フラメンコの日にはマラガ県マルベージャ出身のベテラン、カンカニージャやアントニオ・レジェスが、

カンカニージャ
©︎Kyoko Shikaze

アントニオ・レジェス
©︎Kyoko Shikaze

最終日には地元トリアーナ出身のホセリート・アセド、ロサリオ “ラ・トレメンディータ”が登場しました。

ホセリート・アセド、ロサリオ “ラ・トレメンディータ”
©︎Kyoko Shikaze

 お祭りなので舞台前の着席した人以外は結構うるさいし、仮設舞台ということもあり出演者もやりにくそうではありました。無料公演は多くの人に届く、普段興味を持っていない人にも届く、という面ではプラスだと思うのですが、アーティストがベストのものを見せることができるかというと疑問だし、それゆえアーティストが、ひいてはフラメンコそのものにあまりいい印象を持たない人が出るということも起こりうりそうな気がします。難しいですね。


【ラ・ウニオンのコンクール】

 スペイン東部、ムルシア州の小さな町、ラ・ウニオンで毎年行われるカンテ・デ・ラス・ミーナス国際フェスティバルのコンクール。スペインに数あるコンクールの中でも開始した年(1961年)こそコルドバのコンクール(1956年)より遅いものの、3年に1回開催のコルドバよりも回数はずっと多く行われている歴史を誇るコンクールです。その結果は毎年全国ニュースでも取り上げられており、スペインで最も有名なフラメンコ・コンクールといえるでしょう。

 かつて鉱山の町として栄えたこの町を訪れた歌い手がこの地ゆかりのフラメンコ曲が忘れられつつあるのを嘆いたことで始まったということもあり、鉱山の歌、カンテ・デ・ラス・ミーナスにこだわっているのが特徴です。カンテ部門ではミネーラやカルタヘネーラ、タランタなど細かく部門分けされていますし、ギターソロではタランタ、舞踊ではタラントが必須になっています。


 さて今年のコンクール。カンテの大賞であるランパラ・ミネーラはコルドバ出身の25歳、ロシオ・ルナが受賞。

ロシオ・ルナ
©︎Festival Cante de las Minas

 そのほかの各部門では、ギターがグラナダ出身のフアン・ルイス・カンポス “エル・ポティ”、舞踊はカタルーニャ出身でマヌエル・リニャン『ビバ』やタブラオなどで活躍中のジョエル・バルガスとアルメリア出身のロシオ・ガリード、楽器はピアニストのラウル・ペレスがそれぞれ優勝しました。

 ミゲル・ポベーダは1993年にこのコンクールで優勝したことがきっかけで注目され、表舞台で活躍するようになったということもあるのですが、それは稀有な例。優勝をきっかけに各地のフェスティバルやペーニャでの仕事が増えるということはあるようですが、それがずっと続くということはなく、いっとき注目を集めてもそれをテコに群雄割拠のフラメンコ界で自分の居場所を作っていくのはなかなか難しいようです。

 なおコンクールの模様は、3日間にわたる準決勝そして決勝といずれもYouTubeやFacebookで中継され、そのアーカイブが残っていますので興味のある方はご覧になってみてはいかがでしょうか。


[動画] 決勝



カンテ・デ・ラス・ミーナス国際フェスティバルのコンクール2023年
©︎Festival Cante de las Minas

【筆者プロフィール】

志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。


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